ダルビッシュのカーブに全米騒然。最古の変化球の魅力

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu photo by AFLO

 カーブという球種は、野球最古の変化球とも言われています。その歴史を紐解くと、1863年までさかのぼります。今から151年前、ニューヨークのブルックリンの川辺で、ひとりの少年が遊んでいました。その少年の名前は、ウイリアム・カミングス。通称「キャンディ」と呼ばれる少年は川辺で貝殻を投げていたのです。やがて、キャンディは貝殻の投げ方を野球に応用できないかと考え、1867年4月、地元のブルックリン・エクセルシオールズというチームにピッチャーとして入団。そしてある試合で、新しいボールの握り方を試したのです。

 すると、そのボールは今まで見たことのない曲がり方をしました。それが、「カーブ」の誕生です。バッターはボールに掠(かす)ることもできず、あまりの悔しさにバットを叩きつけたと言い伝わっています。その後、カーブは多くのピッチャーが真似るようになり、速球以外の新しい球種として全米中に広まっていきました。「カーブの父」と形容されるキャンディ・カミングスは通算145勝を挙げて、1939年に殿堂入りを果たしています。

 メジャーでは今でもカーブの人気が高く、多くのピッチャーが愛用しています。過去を振り返るとカーブの名手は数多(あまた)いるのですが、その中でも特筆すべき3人のピッチャーを紹介しましょう。

 まずひとり目は、サンディー・コーファックス(1955年~1966年/ロサンゼルス・ドジャース)です。コーファックスは「カーブの父」ことキャンディ・カミングスが育ったブルックリン生まれで、1955年に地元ブルックリン・ドジャースでメジャーデビュー。ただ、当初は成績のパッとしない二流投手でした。しかし、1958年に本拠地を西海岸のロサンゼルスに移転した後、コーファックスは才能を開花させます。1962年から1966年までの5年間で通算111勝34敗という驚異的な勝率(.765)を残し、その間にノーヒット・ノーランを4回(そのうち完全試合1回)、当時のメジャー記録となる1試合18奪三振を2回、シーズン300奪三振を3回マークしました。

 これらの記録はすべて、コーファックスの武器である「速球」と「カーブ」の2球種で成し遂げた偉業と言っても過言ではありません。左から繰り出されるカーブのキレはすさまじく、相手バッターから次々と三振を奪っていきました。ふたつの球種だけで勝負する投手を、アメリカでは「ツーピッチ・ピッチャー」と呼びます。コーファックスは球界を代表するツーピッチ・ピッチャーと言えるでしょう。

 次に取り上げたいのは、ノーラン・ライアン(1966年~1993年/ヒューストン・アストロズなど)です。メジャー生活27年間で通算324勝を挙げ、歴代1位の通算5714奪三振、さらにコーファックスの記録を塗り替えるシーズン383奪三振をマークし、通算7度のノーヒットノーランを達成しました。引退時には、合計53個ものメジャー記録を作った偉大なピッチャーです。

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