一流ビジネスマン兼大阪学院大高監督が語る「野球と会社の共通点」激戦区で甲子園を狙う指導法とは (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 辻盛監督の経営する会社には、社員のノルマがないという。数字が上がらない社員に対して、辻盛監督は「どうして数字が上がらないと思う?」と質問を繰り出す。社員は質問に答えるなかで、自分自身の問題点に気づくようになる。辻盛監督は言う。

「人のせいにしているうちは伸びませんが、自分で考えて『自分のせいだ』と気づくと急激に考え始める。それは営業マンも野球選手も一緒です。高校生は1〜2カ月で化けるから、面白いですよね」

【チーム一の問題児を主将に任命】

 辻盛監督の就任以降、スタッフも増えている。大学監督時代もコーチを依頼した福井耀介コーチなど、多い日になると10名近い指導スタッフがグラウンドに立つ。なかでも辻盛監督の大学監督時代の教え子でもある平田達也コーチは、動作解析を担当する変わり種だ。動作解析担当コーチを置くことについて、辻盛監督は「すべてが可視化されて、スランプ時に復習ができるから再現性が高められる」と効用を語った。

 環境が変わっていくと、選手たちの目の色も変わってきた。そんななか、かたくなに心を閉ざす部員がひとりだけいた。中心選手の今坂である。学校内でもなかば問題児扱いされる今坂を辻盛監督は呼び出した。

「これからどうなりたいねん?」

「本当はプロに行きたかったっすけど......」

 今坂の言葉は過去形になっていた。辻盛監督が「『行きたかった』って、どういう意味なん?」と聞くと、今坂は「もう無理でしょ」と返した。

「無理ちゃうよ。おまえが本気でやるんやったら、絶対にプロに入れたるわ」

 そう言う辻盛監督に対し、今坂はなおも「絶対はないでしょ」と反抗した。「おまえが本気で1週間やるなら、プロのスカウトを呼んでくるから」と辻盛監督は今坂と約束を結んだ。

 すると、今坂は1週間にわたって別人のように野球に対して前のめりに取り組むようになった。その姿を見て、辻盛監督は「今坂をキャプテンにしよう」と決めた。

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