「野球しかやってきていませんが、御社では役員になれますか」 大阪桐蔭「藤浪世代」の森島貴文は指導者ではなくサラリーマンを選んだ (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tamigami Shiro

 職として会社務めのサラリーマンを目標としたきっかけは、かつて大阪桐蔭にも出入りしていたスポーツメーカー勤務の父の姿にあった。

「親父を見ていて『サラリーマンってカッコいいな』って、子どもの頃から思っていたんです」

 父が聞けば涙腺が緩みそうな息子の言葉だが、サラリーマンのどこに憧れたのか。

「ふだんは一生懸命仕事をして、土日になると子どもたちのために思いきり時間を使って、母親のことも大切にする。そういう姿をいつも見ていてカッコいいなと思っていたんです」

 プロ野球選手になるという夢の一方で、持ち続けていたサラリーマンへの思い。大学3年からの就職活動ではメーカーに絞って回った。そして面接が進むなかで、森島は必ず会社側にこう聞いたという。

「僕はこれまで野球しかやってきていませんが、御社では頑張れば役員になれますか」

 この問に笑みを浮かべて答える担当者もいれば、少々怪訝な表情で反応する担当者もいた。答えは大方「頑張り次第」といったニュアンスが強く、なかにはTOEICの得点や語学力のレベルを具体的に挙げてくるケースもあった。

 TOTOの最終面接でも、森島は同じ質問を面接官に向けた。すると、この時初めてこう返ってきた。

「なれます。弊社にはそういった人間がすでに何人もいます」

 このひと言で森島の心は決まった。1時間後に内定の連絡を受けると、電話口の女性に「よろしくお願いします」と言ったあと、「頑張れば役員になれると言われて決めました」ともう一度、ダメ押しで思いを伝えた。

【役員にこだわる理由】

 それにしても、なぜ森島はそこまで役員にこだわるのか。

「正直なところ、大学4年の時に役員とか執行役員って聞いても、どういう立場で何をするかもよくわかってなかったんです。単純に、将来そこそこ年齢がいった時に、名刺に"役員"とか"執行役員"とか"専務"とか入っていると『おおっ』って感じになるのかなと。そのくらいの感覚だったんです」

 食いつき気味に質問を重ねたこちらに「すいません」といった感じで当時の本音を口にした。ただ入社から7年が過ぎ、その思いは陰ることなく、むしろ強くなっているという。

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