大阪桐蔭「藤浪世代」の主将・水本弦が振り返る春夏連覇の快挙と、大谷翔平と韓国の街中で猛ダッシュの思い出 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 その時はあいさつだけで帰ったが、2、3日が経ち、顔見知りのプロのスカウトと話をするなかで、この日の話題になった。すると、そのスカウトから思いがけないひと言が返ってきた。

「あのチームの監督とオレは一緒で、PLや。手出さんでええぞ」

 まだ何も話は進んでいなかったが、西谷はすぐ水本の父へ連絡を入れた。

「PLの出身とは知らず、勉強不足ですみませんでした。いい選手で見させてもらうと思いましたが、失礼な話を......」

 西谷には、水本獲得は難しいと考えていた。ところが電話の向こうからの声は、西谷に希望を与えた。

「私がPLだから、息子もPLに行くかもしれないですが、行かないかもしれません。息子の進路を狭めることはしたくないので、また見に来てやってください」

 その結果、PLはもちろん、それ以外にも強い関心を示すチームがあったなか、最後は水本自身が決断し、大阪桐蔭行きが決まった。

 入学してから2年半の高校野球生活については、これまでさまざまな場面で語られてきた。先輩たちのレベルの高さに鼻をへし折られたところからのスタート。学校からグラウンドまでの山道を駆ける"山ラン"。夏前の強化練習でグラウドコートを着込んでのランニング......。思い出の定番メニューを振り返りながら調子よくジョッキを傾けていると、「忘れられない一曲があるんです」と、急に歌の話題になった。

「西野カナの『Best Friend』です。この曲名を聴けば、自分たちの代は一瞬であの頃に戻ります」

『Best Friend』は、水本たちが入学する前の2010年2月に発売された曲だ。

「野球部員は毎朝、寮から学校までシャトルバスで行くんです。1年生は座る席もないし立っていて、先輩も一緒なんで静かにしている。その車内にこの歌がリピートで聞こえてくるんです。それがもう......」

 音の出どころは、最後部の席に貫禄十分で座っている3年生の江村直也だった。その年の秋にロッテから指名を受けるドラフト候補が、この曲の大のお気に入り。大音量で聴いているため、イヤホンから漏れる透き通った歌声が水本ら1年生の耳にも届いていたのだ。

「かなり迫力のある先輩だったので、その人が『Best Friend』って......。しかも学校までずっとその曲です。今こうして話をしていても、あの頃の空気を思い出します」

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