「野球の試合には0回の表と裏がある」 創価高・堀内尊法監督が7分間の試合前ノックにかける思い (2ページ目)

  • 元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro

 ここにも恩師の教えがある。澤田氏は言う。

「あの当時、選手には皮手袋を使わせませんでした。だから、こちらも素手でノックを打った。毎日、何百本も打つわけだから、マメはできるし、皮膚が裂けて血も出る。ボールを渡す選手が血染めのボールを見て驚いたもんです。でもそれが、自分なりのポリシーであり、選手に対する配慮ですね」

 時代が変わっても、受け継がれることがある。

【シートノックから試合は始まる】

 ノックは打者の打球を模して打つものだが、左打者特有の打球を右で打つのは難しい。ライン際の切れ方、ドライブのかかり方はどうしても違う。

「右打ちでは打てない打球、左打ちでは打てない打球がありますから、僕はそれを使い分けます。相手のラインナップを見て、左バッターが多い時には左でより多く打つようにしています」

 できるだけ実戦に近い状況で選手にノックを受けさせようと堀内監督は考える。

「フライだけをまとめて打つチームもありますが、うちはそうしません。ゴロがくるかフライになるかわからない場面を想定して、ボテボテのゴロを打ったり、外野と内野の間にフライを打ったりしています。体ならし、目ならしのためのノックで終わったらもったいない」

 堀内監督には、シートノックに関する独自の考え方がある。

「高校の監督になった時、選手たちにこんな話をしました。『野球の試合には0回の表と裏がある。シートノックから試合は始まっているんだ』と。『創価はこんなプレーをするのかと相手に思わせろ』と」

 創価のシートノックは、選手が止まっている時間はほとんどない。内野手はボールを捕って投げ、走ってまた捕って投げる。走者を挟むランダウンプレーも入っている。これほど連動性の高いシートノックを行なうチームは少ない。7分間の試合前ノックの質の高さは日本でもトップクラスだ。

「わざとワンバウンドの送球をさせて、それを捕って投げるというのも組み込んでいます。7分という限られた時間のなかで、選手たちがどれだけ多くボールを触れるかを考え、できることは全部やっています。どの選手も、相手チームの2倍くらいは触っているはずです」

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