「山内政治さんの野球は強烈で忘れられない」 壮絶な人生を送った名将のラストゲーム...宮崎裕也監督(彦根総合)が回顧 (4ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【個性があり変化に富んだ野球】

 山内さんの采配は、つかみどころのない変化に富んだ野球でした。5点とってそれが全部スクイズの時もあれば、スクイズをまったくせずに攻め続けてくる時も。相手によって対応を変え、一辺倒ではない野球は私にとっても興味の的でした。

 今や高校野球はスカウティングの時代で、いかに選手をそろえるかが第一条件になっている。そのせいで各チームに個性がなくなり、どこも同じようなカラーになってしまったと私は感じているのですが、その点、山内さんのチームは個性があった。

 選手の個々の力に頼るのではなく、チームとして仕上げていく指導。個々はもちろんしっかりつくっていくけれど、チームにおける自分の役割を、広い視点で選手に落とし込んでいったのだと思います。

 そして、山内さんが野球を選手に理解させるために活かしていたのが、独自の指導書『野球の定石』です。率いていた能登川では作戦が怖いくらいに徹底されていて、選手が迷わず実践していたのが印象的でした。

 トップダウンで命令したり、やらなかったら使ってもらえない程度の理解だったら作戦に必ず漏れが出るものですが、それがまったくない。この時はこうプレーするんだと指導しながらも、なぜそうするのかといった理由も含めてきちんと野球を教え、その土台になっていたのが『野球の定石』。選手の意見にも耳を傾けながら、選手が納得のいくように導いていったのでしょう。

 山内さんの戦法のなかでも、当時話題になっていたのが「パーフェクトスクイズ」でした。これはスクイズを外されても三塁ランナーは絶対アウトにならないというもので、理屈はわかるのですが、やろうと思ってもそう簡単にはできない。

 だから彼に会ったあの寿司屋で、パーフェクトスクイズについてぜひ教えてくださいと言ったんです。そうしたらにこやかに笑って、「これは墓場まで持って行きます」と。最後まで教えてくれませんでした。

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