元ベイスターズ・高森勇旗が高校時代に設定した「プロ野球選手になるため」の2つのKPI (3ページ目)

  • 高森勇旗●文 text by Takamori Yuki

 ちなみに、ランナーは0.1秒の間に約70cm進むと言われており、0.2秒変わると1.4mの差になる。この0.2秒の差は途轍もなく大きく、プロに入るための指標は、じつは明確に数値で測ることができるわけだ。

【運命を変えた1.78秒】

 高校2年の冬、当時の私のセカンドスロータイムは、平均すると1.95秒くらいだった。高校生レベルであれば、ほとんどの盗塁はアウトにできるレベルだ。しかし0.1秒縮めるごとにプロに近づけると考えた私は、その数値をより細分化することにした。

 ホームベースからセカンドベースまでの距離は約39m。もし130キロの球速のボールを投げることができれば、ボールはその距離を1.08秒で移動する。さらに、ボールを捕ってから0.6秒以内にリリース(投げる)できれば、トータル1.68秒で転送されることになる。あくまで計算上ではあるが、1.68秒でセカンドにボールを投げることができれば、地球上のすべての人類をアウトにできることになる。とにかく私は、130キロのボールを投げること、0.6秒以内にボールをリリースすること、この2つの練習だけに絞ってトレーニングに励んだ。

 その途中、小さいモーションで130キロのボールを投げることは、当時の私には不可能であるとあきらめ、0.6秒以内にリリースすることだけにフォーカスした。1球1球ストップウォッチで計測し、いかに素早くステップを踏むか、ボールの握り換えをスムーズにできるか、とにかく0.6秒を目指した。

 冬が明け、舞台は春の県大会決勝。その初回、相手チームのランナーが盗塁を試みた。冬の間、磨きに磨きをかけたスローイングは、ランナーがセカンドベースに到達するよりもはるか前でセカンドのグラブに収まった。

 タイムは1.78秒。スカウトを目の前に出したそのタイムは、そのままプロへのチケットとなった。

【すべてを数値化して分ける】

「プロ野球選手になるため」に練習するといっても、あまりにも具体性がない。ところが「0.6秒以内にリリースするため」に一生懸命練習することは可能である。

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