慶應を107年ぶりの日本一へと導いた「ストーリー」「脱・丸刈り」「甲子園で勝つ3条件」 (3ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 5回表に慶應は5点のビッグイニングをつくったが、4、5点目は仙台育英のミス。丸田の左中間に飛んだフライをレフトとセンターが追いかけて衝突。センターの橋本航河のグラブからボールがこぼれた。

「お互い『オーライ』と声をかけたんですけど、慶應の応援がすごくて聞こえなかった。声を出したほうが捕ることになっているんですけど......。レフトは(アルプススタンドと)近くて大音量で守りにくかったです」(レフト・鈴木拓斗)

「レフトの声は聞こえなかった。基本的に間の打球は自分が捕ることになっているんですけど、応援もあって慌ててしまいました。捕った感覚はありましたけど、ぶつかって手がずれて落としてしまいました」(センター・橋本)

 初回から途切れない大声援。さらに、得点が入るたびに立ち上がって『若き血』の大合唱。アルプス席以外も立ち上がる人が多く、イニング間に何度も「立ち上がっての応援は後ろの方が見えないことにつながります。後方のお客様のご迷惑にならないように十分ご配慮ください」と異例のアナウンスが流れたほどだ。

 この異常な状況は、経験十分の仙台育英ナインでも対処できなかった。昨年から4番・ライトで出場している齋藤陽(ひなた)は言う。

「慶應の応援はすごいってわかっていたんですけど。実際、(グラウンドに)立ってみたら想像以上にすごかった。アルプスだけじゃなくて内野席も慶應だったんで......。去年は自分たちが応援されているかなって思ったんですけど、今年は完全アウェイかなと。完全アウェイは初めてです」

 相手を呑み込むほどの応援が慶應に勢いをもたらし、森林貴彦監督も大村昊澄(そらと)主将も言った「実力プラスアルファの力」を引き出すことにつながった。

【甲子園で優勝するための3条件】

 ストーリーに加え、甲子園で優勝するために必要な条件が3つある。それは「実力」「勢い」「運」だ。甲子園優勝3回、準優勝4回の元智弁和歌山監督の高嶋仁氏が常々言っていたこと。どれが欠けても優勝には届かない。

 春夏連続出場、3回戦で優勝候補の広陵を破った慶應の実力は説明するまでもない。先述したように大応援団に後押しされて勢いもある。残るは運だが、こちらも慶應は"持っていた"。

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