慶應を107年ぶりの日本一へと導いた「ストーリー」「脱・丸刈り」「甲子園で勝つ3条件」 (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 2010年は沖縄勢の夏の甲子園初優勝と春夏連覇がかかる興南に、スタンドは沖縄一色。試合前からハイテンションのスタンドに乗せられ、興南打線は4回に一挙7点を挙げるなど爆発。13対1の圧勝で東海大相模を下した。

 じつは慶應にもプラスアルファの要素があった。それは長髪であること。今年6月に高野連が髪型についての調査結果を発表。5年前は丸刈りが76.8%だったが、今年は26.4%。大幅な減少が「高校野球のあり方」を問うきっかけとなり、大会中も長髪のチームが勝ち上がるたびに話題となった。

 慶應にとっては、「これでもか」というぐらいのお膳立てはできていた。だからこそ、勝負は序盤だった。慶應が先制すれば、スタンドのボルテージは一気に上がる。大声援に加え、立ち上がっての応援にスタンドは揺れる。とくに慶應の三塁側アルプスが目に入る右投手は、ふだんの何倍もの圧がかかる。いかに昨年夏の決勝を経験している仙台育英の湯田統真、高橋煌稀でも、本来の投球は望めなくなる。

【完全アウェイだった仙台育英】

 そして初回、慶應の1番・丸田湊斗が流れを呼び込んだ。追い込まれながら、低めのスライダーをライトスタンドに放り込んだのだ。105回の歴史を誇る夏の選手権大会で史上初となる先頭打者本塁打。これが仙台育英に大きなダメージを与えた。

「とにかく勢いに乗らせないように(丸田を)しっかり抑えようと話をしていた」と言った仙台育英の捕手・尾形樹人の目論見は外れ、慶應は勢いづく。いきなり盛り上がる慶應の大応援団に、ベンチにいた背番号3の齋藤敏哉も驚いた。

「昨日から須江(航)先生が『球場の3分の2が慶應の応援だ』と話をしていたんですけど、丸田のホームランの時から『エグいな』と。先に点をとられてしまって『やべぇな』という感じになってしまいました」

 仙台育英にとっては最悪、慶應にとってはこれ以上ない最高のスタートになった。

 さらに、渡辺憩(けい)の三塁ゴロを湯浅桜翼(おうすけ)が捕れず安打にすると、暴投、四球で一、二塁。二死後、渡辺千之亮(せんのすけ)のショートフライを山田脩也が捕球態勢に入りながら捕れず、もう1点が入った。

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