慶應義塾が「想定外の勝利」で103年ぶり決勝進出 盤石の王者・仙台育英にどう立ち向かうのか (3ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 森林監督がそう言うのも無理はない。この試合、慶應義塾はなんと3度もスクイズを失敗しているのだ。一度目は5回裏一死二、三塁で3番の渡辺千之亮。カウント2−1からの3球目をファウルにした。二度目は6回裏一死三塁で8番のキャプテン・大村昊澄がカウント1−1からの2球目をファウル。三度目は7回裏一死三塁で4番の加藤右悟がカウント1−1からの3球目をファースト前に上げてしまい、併殺になってしまった。渡辺千は神奈川大会から犠打ゼロ。加藤も広陵戦の1つだけ。ともにスクイズはない。想定外のサインだったのだろう。

 これだけミスが続けば、相手に流れを渡してしまうもの。だが、予定どおりにいかない監督の采配を選手がカバーした。

 6回裏、スクイズをファウルにした大村がその後3球ファウルで粘り、9球目をセンター前へタイムリーヒット。貴重な2点目をもたらした。監督のミスを選手が取り返す。予定どおりにはいかなくても、選手がカバーすることでチームは強くなる。

【あえてパターンを崩した沖縄尚学戦】

 その意味で、慶應義塾は準々決勝の沖縄尚学戦でも想定外のことがあった。森林監督は神奈川大会でも先発していない背番号10の2年生・鈴木佳門を先発に抜擢したのだ。187センチの大型左腕は5回3安打2失点の好投でチームに勝利をもたらした。この起用について、森林監督はこう言っていた。

「鈴木が県大会より調子がよくなってきたこと。あとはこの大会で優勝したい、チームとして成長したいという理由です」

 神奈川大会決勝から甲子園の初戦、2戦目はすべて小宅--鈴木--松井喜一という継投だった。沖縄大会で31回1/3を無失点、甲子園でも18回1失点の好投手・東恩納蒼を擁し、大量点は望めない沖縄尚学を相手に、あえて形を崩して勝負をかけたのだ。

 結果は「吉」と出た。打線も13安打7得点と奮起。7対2と5点差をつけての圧勝だった。勝利だけでなく投手起用の幅が広がり、チームとして成長を確信した試合だった。

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