慶應義塾が「想定外の勝利」で103年ぶり決勝進出 盤石の王者・仙台育英にどう立ち向かうのか (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 仙台育英は攻撃面でも強さが見える。

 もっとも、それが表れたのが3回戦の履正社戦。3対3で迎えた8回表だった。先頭の湯浅桜翼が二塁打で出ると、4番の齋藤陽が送って一死三塁。ここで5番・尾形樹人がスクイズを決め、決勝点を奪った。

「尾形が打席に入る前にスクイズと決めていた」と須江監督が言えば、尾形も「今日の自分のバッティングの調子からして(3打数0安打)、スクイズのサインは出ると思っていました。自分から『スクイズします』と言おうと思ったら、須江先生から言われました」。

 場面や状況を考え、自分には何のサインが出るのかを考えるのが仙台育英の野球。監督と選手の考えが一致するから作戦が決まる。準決勝の神村学園戦でも、同点の3回裏一死三塁で4番の齋藤陽が1ボールから勝ち越しとなるセーフティースクイズを事もなげに成功させた。

 準決勝の試合後、尾形が「湯浅は焦ってましたけど、3年生はまったく焦ってませんでした」と、4点リードの9回表一死一塁からサードゴロを二塁へ悪送球した2年生を暗にいじっていたが、尾形をはじめ、ショートの山田脩也、センターの橋本航河、ライトの齋藤陽は優勝した昨年からのレギュラー。決勝の大一番の経験値は大きな強み。起こるかもしれない想定外にも対処できるだろう。

準決勝で土浦日大を完封し、103年ぶり決勝進出を果たした慶應義塾の2年生エース・小宅雅己準決勝で土浦日大を完封し、103年ぶり決勝進出を果たした慶應義塾の2年生エース・小宅雅己この記事に関連する写真を見る

【想定外の完封勝利】

 一方の慶応義塾は予定どおりとはいかなかった。

 神奈川大会から甲子園準々決勝まで全試合継投で勝ち上がってきたが、甲子園準決勝の土浦日大戦はエースの小宅雅己が118球で7安打5奪三振の完封勝利。この夏初めてひとりで1試合を投げきった。森林貴彦監督は言う。

「想定していない展開です。小宅がひとりでいくイメージはなかったんですが、なかなか代えどきがなくて、負担をかけてしまった。最後は『ごめんね』という気持ちでした」

 小宅が完投することになったのは打線が2点しかとれなかったから。接戦で動きづらい状況になってしまったからだ。

「5点ぐらいとってあげないといけなかった。今日は監督の采配がよくなかった。攻撃面で課題の残る試合でした」

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