龍谷大平安のアルプスから奏でられる魔曲「あやしいボレロ」の発案者は、なんとあのレジェンド左腕だった (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

「久しぶりの甲子園が近づき、川口コーチ自身の気持ちも高ぶっているか?」と。すると「やっぱりそうですね」と表情を崩してうなずくと、「昨日、壮行会があったんです」と言って続けてきた。

「吹奏楽部の生徒たちが校歌を演奏してくれて、退場の時には『あやしいボレロ』。それを聴いて泣きそうになりました。やっぱりこの曲には、特別な思い入れがあるんで......」

 今や高校野球ファンに広く知られるようになった平安のアルプススタンドから響く『あやしいボレロ』。この曲は、低迷が続いていた平安に復活の流れをつくった川口たちの代の1997年に生まれた。そのことは、これまでの取材や川口からも直接聞いたことがあった。エースで4番、主将まで務めていた川口にとって、当然、思い入れのある曲なのだろうと納得していると、思わぬひと言が飛び出した。

【魔曲の発案者はまさかの...】

「あの曲は、僕がきっかけで生まれたんです。だから余計にジーンとくるんです」

 興味津々となったこちらの反応に、「知る人ぞ知る秘話です」と笑って、当時の状況を教えてくれた。

 それは高校2年の秋。チームは京都大会優勝から近畿大会ベスト8に進み、17年ぶりのセンバツ出場を確実なものとした。原田英彦が指揮を執って5年目のことだ。ひとつの大きな山を越えた川口の頭には、ある思いが湧いてきた。

「応援をなんとかしたいというのがあったんです。当時の応援は、どこもやっているような曲を使ったものばかりで、オリジナルの曲がほとんどなかった。それがイマイチやなと、ずっと思っていたんです」

 そんなことを思っていたところへ、ひとりのクラスメイトが話しかけてきた。

「生徒会長で応援団長でもあった"イトウくん"が『応援団として、何か野球部にできることはないか』って聞いてきたんです」

 ふだんから野球部のことを気にかけてくれる級友とは、それ以前からもぼんやりと応援について話すことがあり、ここで川口は提案した。

「これからはもっとオリジナルの曲をつくっていかなアカン。平安にしかない曲、聴いたら『平安や!』ってわかるような、しかもカッコいい曲をつくってきてくれ!」

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