歌って踊れるプロ野球選手に。ミュージカル俳優が独立リーグで初舞台 (3ページ目)

  • 井上幸太●文・写真 photo by Inoue Kota

 そんな気持ちが芽生え始めたある日のこと。稽古の合間に何気なく行なった先輩俳優とのキャッチボールが大きなきっかけとなる。野球経験の豊富な先輩俳優のグラブを目がけて、思い切り腕を振ってボールを投げ込むと、驚いた表情とともに、こんな感想が返ってきた。

「ちゃんとトレーニングを積んだら、もっと上を目指せるんじゃない?」

野球で褒められる――久しぶりの感覚に高揚する自分がいた。

「中学時代のいざこざが原因で、拗(す)ねて野球をやめた自分が野球で褒められた。本当に久しぶりの感覚で。ここで『もう一度野球に向き合おう』と決心できました」

 そんな折、巨人が入団テストを実施することを耳にする。「まず合格できないだろう」と思ったが、目標が高すぎる分、気持ちも吹っ切れた。

「1次テストの合格ラインが50m走6秒3以内、遠投95m以上。それに対して受験を決意したときの自分が50m走8秒5、遠投は80mにも届いていませんでした」

 そこから、舞台の稽古終了後にトレーニングを重ねる日々が始まった。そして、迎えた1次テストは遠投で95mオーバーを記録するなど基準をクリアし、見事通過。投手として受験していた和田は、2次の投球テストに駒を進めることとなった。

 中学時代は主に一塁。マウンドの傾斜で投げた経験もほとんどなく、ストライクが入らない。当然、吉報は届かなかった。

 不合格となったものの、全身全霊をぶつけることができた。持ちうる力を出し切ったことで、自身のなかに長年、燻(くすぶ)っていたモヤモヤは姿を消した。

「テストを受験して、長年抱えていた"1%のモヤモヤ"は消えました。けど、1次を通過したことで『もっとやれるんじゃないか』という気持ちが湧いてきたんです」

 再び野球と向き合うなかで感じた自らの可能性。野球へのわだかまりが消えると同時に、「もっと上を目指したい」という思いが強くなっていった。プロを目指す道を模索するなかで独立リーグの存在を知り、昨年末に開催されたトライアウトを受験。晴れて合格となり、徳島でプレーすることが決まった。

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