「九州の快腕」「宮城のドクター0」...地方大会で消えた凄い投手たち (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 このふたりほど知名度はないが、板野高(徳島)の右腕・森井絃斗(もりい・げんと)も素晴らしい才能を持った逸材だ。

 春の県大会で150キロをマークし、一躍注目を集めた。184センチ、87キロという体から、剛速球で相手を圧倒するピッチングをするのだろうと勝手に想像していた。しかし、この夏の地方大会を見て驚いた。

 セットポジションから軸足に体重を乗せたどっしりした姿を見て、この投手のピッチングがわかった。スピードよりも意識しているのは制球力だ。とにかく投げ損じがないように、細心の注意を払いながら投げる。それでも、しっかりと指にかかったボールは重く、打者は外野に飛ばすのもひと苦労だ。

 真上から投げ下ろしているのにホップするようなストレート。高めのボールゾーンでも、打者はつられて空振りを繰り返す。3ボールになっても、そこから簡単にストライクを続けて打者を封じ込める。大型の本格派で3ボールから粘れるのは、それだけで大きな財産だ。

 ストレートも素晴らしいが、真横に滑るスライダーは"魔球"と呼べるほど精度が高い。打者がストレートだと思って振りにいった瞬間、ボールは視界から消えるように横に移動する。高校生がこの球を打つのは至難の業だ。おそらく、プロでも十分に通用するだろう。

 森井は絶対的エースでありながら、チームのキャプテンも務める。「オレが背負うんだ!」という気概に溢れている。たとえば、同点のまま迎えた試合中盤で、打席に入った森井は一塁にプッシュバント。そして渾身のヘッドスライディング。「投手がヘッドスライディングとは何事か!」と一喝されそうだが、「なんとかしなければ!」の気持ちが清々しい。

 惜しくも甲子園まであと一歩のところで力尽きたが、躍動感溢れるピッチングは将来を大いに期待させた。高校卒業後の進路は、社会人野球を希望しているという。3年後、どんな投手になっているのか、今から楽しみでならない。

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