【高校野球】地方大会秘話。古豪復活を託された2人の野球ド素人 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 翌2011年、3月11日に発生した東日本大震災を挟んだ4月、中山は日立一高に異動する。震災の混乱は続いていたが、皆川は中山から「選手向けのセミナーをやってほしい」と依頼を受けた。

 日立一高は県内トップクラスの進学校ながら、かつては茨城大会で上位進出するのが当たり前だった。1985年夏の甲子園に出場した歴史を持っているが、近年は県大会で1回戦負けをしても珍しくないほど、低迷が続いていた。

「いわゆる『文武両道』と言われる学校で強いチームにあるものと、日立一高にないもの、また『あっていいもの』とは何か?」

 さまざまな強豪校と母校を比較した皆川は、「学校や野球部に対する『誇り』が足りない」という結論に達した。学校の伝統と野球部の歴史。先人たちが築いてきたものを知ることで、選手たちに誇りを持たせたいと考えたのだ。普段は広告代理店に勤務しているだけに、パワーポイントで資料を作成するのは慣れていた。骨格になる内容ができあがると、中山に見せてみた。

「まさに、こういう話をしてほしかったんだ!」

 同年12月に初めてのセミナーを開くと、評判は上々。中山からは「定期的にやってほしい」と頼まれた。野球ド素人の皆川が、高校野球部の外部アドバイザーになった瞬間だった。それ以来、皆川は日立一高で定期的にセミナーを開き、また公式戦はもちろん、時には練習試合までスコアブックを持って観戦に訪れるようになる。

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