迷走する新国立競技場。ザハ案になぜ決まり、白紙撤回されたのか (2ページ目)

  • text by SPORTIVA 日本スポーツ振興センター/AP/アフロ●写真提供

 そしてザハ案に決まって、「ああ、やっぱりこういうのを選ぶんだ」と思いました。世界的な賞の受賞歴がコンペの応募資格であることと、東京五輪招致に向けて、そのメイン会場である国立競技場の役割を考えれば、著名建築家であるザハのような派手なデザインを選びたかったのは当初からある程度予測できていました。だから「これが僕の国の建築文化だよね」という諦めの気持ちもあった。しかし、東京五輪招致が決まる前、日本建築界の重鎮である槇文彦さんという建築家が問題提起をしたら、それにともない他の建築家も声を上げ始めた。本当はそれではいけない。言うべきところは言わなきゃいけないと、私自身、反省しました。

杉山 建築の世界の人が反対を言い出すのは、槇文彦さんが言ってからでしたね。マスコミが取り上げるのは建築費がかかりすぎるという話ばかりだし。じゃあ建築費が安かったらあれでよかったのか、という話もあるじゃないですか。メディアの反応も悪かったし、その前に、本当にみんな真剣に考えたのかというと、誰も考えてないようなところがある。だから責任のなすり付け合いみたいになってしまった。ああなった原因は、山嵜さんはどこにあると思われます?

山嵜 おおもとは、コンペの初期設定が間違っていたと思います。すなわち、間違った認識でも進めようと言った主催者、JSC(日本スポーツ振興センター)などの関係者に、建築や都市に対する思い、いわば建築リテラシーがなかったという話です。ただ、それは建築業界が反省しなきゃいけない話でもある。コンペの初期設定を作った人が悪いのだとしたら、じゃあ一般人でもある彼らに対して、建築業界はどれだけの説明をしてきたのかというと、やっぱりしてないだろうと感じます。

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