【競馬】有馬でラストラン。ジャスタウェイが伝説になる

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo

 そんな状況にあって、世間の評価は急落していった。出自を見れば、母は無名の未勝利馬。父も、当時は際立った産駒を輩出しておらず、種牡馬としての評価が定まっていなかったハーツクライである。セレクトセールで1260万円というお手頃な価格だったことを考えれば、「そもそも過度な期待をかけるほどの、スケールの大きな馬ではないのではないか」と、多くの人が思い始めた。

 それはやがて、「ジャスタウェイはA級の馬であっても、いわば並のA級馬。少なくとも、競馬シーンの主役に上り詰めるような馬ではない」という評価につながっていった。ひと言で言えば、脇役の域を出ない、地味な存在と見られるようになってしまったのだ。ブレイクのときを迎えることとなる昨年の天皇賞・秋で、5番人気にとどまったのは、まさにその証拠だろう。

 だが、世間の評価が落ちていくこの期間、ジャスタウェイが勝てないのには、勝てないなりの理由があった。関西の競馬専門紙記者が語る。

「この馬には、デビュー前から"馬体が緩い"という弱点があった。それが、ずっと解消されなかったんです。馬体が緩いというのは、競走馬としてしっかりすべきところがしっかりし切れていない、ということで、それが競馬の勝負どころで(詰めの甘さとなって)出るんです。でも、それを無理して何とかしようとすると、すぐに疲れが出たり、別のどこかがおかしくなったりしてしまう。走る馬にはよくあることで、それが解消されないまま、引退する馬も少なくありません。この時期のジャスタウェイは、まさにそういう状況でした」

 ジャスタウェイは、ずっと弱点を抱えていたのだ。が、裏を返せば、その弱点さえ克服できれば、一気に超A級の馬にのし上がる可能性も秘めている、ということである。ゆえにその間、ジャスタウェイと厩舎スタッフとの、懸命な努力の日々が続いていた。期間はおよそ1年8カ月にもおよんだが、その時間こそ、ジャスタウェイが飛躍するためには必要だった。

 その努力を支えていたのは、新馬戦の圧勝劇だという。

「(馬体が)パンッとすれば、きっとこの馬はあれくらい走ってくれる」

 厩舎スタッフの誰もがそう信じていた。そして、「新馬戦のあの姿をもう一度見たい」と思っていた。だからこそ、厩舎スタッフはなかなか結果が出なくても、諦めなかったし、めげなかった。日々、ジャスタウェイの馬体のケアを怠らず、馬体が締まるまで辛抱強く待ち続けた。そんな厩舎スタッフの努力と思いがついに実を結んだのが、昨秋の天皇賞・秋だった。

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