イニエスタが「バルサのようだ」と言った直後、指揮官は神戸を去った (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 三木谷浩史会長が神戸を語る際、その言葉が繰り返し使用される。

 しかしながら、バルサの英雄であるジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)の"師匠"にあたるリージョ本人は、「バルサ化」という言葉を軽率に用いてはいない。

 バルセロナがどのように成り立っているクラブか。それを考慮すれば、2、3年では達成できるはずがないスケールの構想だからである。バルサは、かつて中央政府に迫害を受けたカタルーニャ人の"よすが"であり、強烈なアイデンティティを持つ。そこにヨハン・クライフという鬼才が世界的な選手を揃え、ラ・マシアという下部組織を整備。美しく勝つチームを作りあげた。

 それでも、リオネル・メッシを生み出すには15年以上の年月がかかっている。メッシになれなかった者たちはいくらでもいる。一朝一夕で起きた奇跡ではない。

 リージョは幻想を見なかった。そして、現場の選手たちをとことん鍛えた。現実を直視し、選手の特性を見抜き、その才能を少しずつ伸ばしている。どこにポジションを取れば、優位にプレーを動かし、攻守でアドバンテージを取れるのか。

「日本人の能力の高さを、私は日本人以上に信じている」

 リージョは笑顔でそう言って、選手には挑みかかるように、真摯に接した。

 実は、サンペール獲得はリージョがリクエストしたものではない。リージョ本人は、日本人選手のクオリティを引き上げることを考えていたし、サンペールの起用法について、思い悩んでいるところは多分にあった。

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