辞任から続投へ。ジュビロ名波監督が
味わった残留確定後の壮絶な90分

  • 原田大輔●取材・構成 text by Harada Daisuke
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

 そこからまた、J1参入プレーオフ決定戦のヴェルディ戦が終わったあと、J1残留を決めて選手たちがピッチで喜びを分かち合っているとき、自分は(スタジアム内にある監督)部屋に戻って、服部と2人で話をしていたんだよね。そこで、すぐに自分は『お疲れ。(監督を)辞めるから』と。

 そうしたら、服部は『ちょっと待て』と。そこから、自分に対する評価、自分は表向きには言ってこなかったんだけど、主力の多くがケガしたなかでここまでやってきたこと、勝ち点41を挙げたこととか、延々と評価してくれた。そのうえで、『辞めるな』と言ってくれたんだよね。

 だけど、自分はそれでも『来年、このチームを好転させる自信がない。"自信がない名波浩"なんて、これっぽちも魅力がない』と言って、そこでもう涙を堪えきれなくなって......。服部も同様で、ふたりで大号泣して......」

――試合直後にそんなやりとりがあったんですね。

「そうなんだよ。ふたりで大号泣しながら、服部は自分より年下なんだけど、『それでもいいから(監督)やれよ!』『おまえがやらなきゃ、誰がやるんだよ!』って言ってきて......。

 それでも、自分は『自信がないから無理だ』って、『いいスタッフはいるから、勝てる監督を呼べよ』って言うと、そこでまた服部が『いいんだよ、ガタガタ言わずにやれよ!』『おまえが辞めるなら、オレも辞める』とまで言い出して。いつも冷静な服部も、あのときはさすがに感情的になっていたね。

 そうやって、ふたりが言い合っていると、鍵をかけていたドアがガチャガチャと鳴る音がして、ドアを開けると、社長が立っていた。それで、号泣して言い合っている自分たちを見て、社長も泣き出して......。

 で、しばらくすると、社長が自分に向かって、『4年間一緒に仕事をしてきて、おまえに命令したことはないけど、初めて命令する。おまえの親父とお袋に変わって言うからよく聞けよ』と言うと、ひと言『いいからやれ!』って叫んで、そのまま部屋を出ていった」

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