九州に今永昇太を彷彿とさせる左腕。早くも来季ドラフト上位候補と評判

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

「犬飼知三郎(いぬかい・ちさぶろう)みたいで格好いい名前ですね」という筆者のどうでもいい感想に、隅田知一郎は不思議そうな表情で首を傾げた。犬飼知三郎の存在自体を知らなかったのだ。

 水島新司氏の野球漫画の名作『ドカベン』に同名のキャラクターが登場することを告げると、隅田は「そういえば、高校時代の監督にも言われたことがあるかもしれません」とつぶやいた。

 犬飼知三郎は小柄な左腕で、頭脳的な投球で勝負するキャラクターだった。そして隅田もまた、身長170センチ台半ばと体格的に恵まれているとは言えないサウスポーである。全国的な知名度こそないものの、密かに「来年のドラフト上位候補」と評判になりつつある。それが隅田知一郎という大学生左腕なのだ。

来年のドラフト上位候補に挙げられている西日本工業大の隅田知一郎来年のドラフト上位候補に挙げられている西日本工業大の隅田知一郎 ただし、隅田の名前「知一郎」の読みは「ちひろ」である。隅田は「小学校の新任の先生は、いつも出席簿を読み上げるときに僕のところで固まっていました」と笑う。「ちいちろう」や「ともいちろう」と呼び間違えられることがほとんどだった。

 名前の由来は「何事にも興味を持ってもらいたい」という意味合いから「知」の字を、さらに長男だから「一」、祖父・八郎さんから「郎」の字を授かり、「知一郎」と名付けられたという。

 隅田は西日本工業大のエース。高校時代は波佐見(長崎)の中心投手として甲子園に出場し、2017年夏の開幕戦(滋賀・彦根東戦)で好投を見せた。当時最速143キロだったスピードは現在150キロまで伸び、空振りを奪えるだけのキレがある。あるスカウトは「来年のドラフトで3位までに消える好素材」と語っている。

 九州の大学野球は九州産業大や九州共立大などが所属する福岡六大学、福岡大などが所属する九州六大学がよく知られている。だが、九州にはもうひとつ連盟がある。それが九州地区大学野球連盟である。

 2003年にリリーフを続々と継ぎ込む異色の戦法で大学選手権を制した日本文理大が、絶対的な常勝チームとして君臨する。長らくトーナメント形式で運営していたが、2016年から北部九州・南部九州とブロックを分けて開催される形式になった。

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