競技と人生。片山右京が語る
「世界で戦える者と戦えない者の違い」

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira
  • photo by AFLO

 だから、スピリットで負けていたり、情熱が大きく強くなかったら、絶対にもたない。たとえば、怒られてお尻に火がついたりすると、短期的にはよい結果を出すかもしれないけど、それだけだとやがてほころびが出てくるし、コツコツ努力を積み重ねている人には勝てない。365日のうち300日はずっと筋肉痛があって、それでも毎日苛酷な努力を続けるのはつらいかもしれないけど、その痛みに耐えられなければ、今度はむしろ自分のハートが痛む。そのハートの痛みを知っている人だけが、前に進むことができると思うんです」

 片山の考えるこの"強さ"とは、人が生きていくときの何か普遍的なものとも、通底するところがあるのかもしれない。

「これは片山右京的持論なんですけど、自分の弱さや駄目さを知らない人は、次のレベルにステップアップできないんです。一度、もう駄目だというところまで打ちのめされた経験のある人は、スイッチを切り替えたら、むしろスポンジみたいにいくらでも努力して向上できる。年齢や性別と関係なくね。だから、本当にコテンパンにやられてしまう前に、自分が駄目なことに気がつくべきなんです。そのほうがむしろ、遠回りをしなくてすむ。

 よく言われるような、『泣いた数だけ強くなる』みたいな話じゃないけど、そこはやはりきれいごとじゃなくて、苦労したり失敗を経験した人のほうが、強くてたくましいことが多い。『失敗したことありません』なんてカッコつける必要もないし、『体調が......』とか、『波が......』とか、言い訳をする必要もない。寝言は寝てから言えばいいんですよ。おじさんは厳しいこと言いますけどね(笑)」

(次回に続く) 連載『遥かなるツール・ド・フランス』は毎月下旬に掲載

■遥かなるツール・ド・フランス~片山右京とTeamUKYOの挑戦~記事一覧>

プロフィール

  • 片山右京

    片山右京 (かたやま・うきょう)

    1963年5月29日生まれ、神奈川県相模原市出身。1983年にFJ1600シリーズでレースデビューを果たし、1985年には全日本F3にステップアップ。1991年に全日本F3000シリーズチャンピオンとなる。その実績が認められて1992年、ラルースチームから日本人3人目のF1レギュラードライバーとして参戦。1993年にはティレルに移籍し、1994年の開幕戦ブラジルGPで5位に入賞して初ポイントを獲得。F1では1997年まで活動し、その後、ル・マン24時間耐久レースなどに参戦。一方、登山は幼いころから勤しんでおり、F1引退後はライフワークとして活動。キリマンジャロなど世界の名だたる山を登頂している。自転車はロードレースの選手として参加し始め、現在は自身の運営する「TeamUKYO」でチーム監督を務めている。

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