【自転車】片山右京「東京五輪が自転車界に及ぼすもの」

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira 五十嵐和博●写真 photo by Igarashi Kazuhiro

 片山が感じているこの痛みは、自分たちがこれから戦っていくべき場所の本当の高さや厳しさに触れ、今いる位置とのギャップを目の当たりにし、その苛酷さをまさに身をもって知ってしまったからだ、という。

「外国人選手を連れてくれば日本では勝てるけれども、ヨーロッパに行くと目立つことはできても結果を残せず、ボロボロにやられてしまった。その現実を考えると、本当に勝つためには、そしてワールドツアーに行くためには、選手たちの育成強化や強い選手の獲得、チームの規模拡充等々の面で、ここからが本当のチャレンジなんだ、そして、そのためにはしなきゃいけないことがあれもこれもある。そういうことが今まで以上にハッキリと分かってしまったから、『痛てててて』って(笑)」

 そして、この痛みを克服し、目標に向かって進んでいくためにこそ、自分たちの原点や本質をけっして見失ってはいけないのだ、と片山は考えている。

「僕たちの本業は、人に夢や希望を与える精神的な部分と、復興支援や自立支援という具体的な部分を両立させていくこと。その基本的なコンセプトや哲学から外れてはいけないし、人々から必要とされたり、みんなの役に立たなければ、活動を続けていく意味もない。だから、高みを目指して上を見なきゃいけないけれど、足もともしっかりと見据えて、同時進行でいくつものレールを作っていかなければならないんです。まだ、始まったばかりで、「0」が「0.5」になった程度だから、(ツール・ド・フランス参戦という目標は)雲を掴むような話だと思われてしまうかもしれないですけどね」

 グランツールの頂点「ツール・ド・フランス」を目指すサイクルロードレースの活動については、2020年の東京オリンピックが大きな梃子(てこ)になる。しかし、その梃子に頼りすぎると、あとで痛いしっぺ返しを食らうことにもなる、という。

「今はすごい数で自転車の競技人口が増えていて、健康のために乗る人や、環境対策の面でも推奨されている。今後の都市デザインや道路設計にも大きな影響を及ぼすでしょう。東京オリンピックという大きな目標に向けて、選手の育成やインフラ整備などで企業や政治家は前向きに協力してくれるだろうから、このチャンスを活かさない手はない。ただ、オリンピックが終わると一気に流れが変わって、潮が引いたみたいにみんなが去っていくことにもなるでしょう。

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