【自転車】片山右京「マッサーが語るレーサーの超人的肉体」 (2ページ目)

  • 西村章●構成・文・写真 text & photo by Nishimura Akira

 愛三工業レーシングチームの仕事で北米ツアーアジアツアーのレースにでかけ、国内でミヤタのレースのケアをして、それが終わると日本ナショナルチームのスタッフとして中国・昆明の高地合宿に帯同――。そんな日々が続くうちに、ミヤタ・スバル・レーシングチームが2007年いっぱいで活動を停止することになった。森川は選手たちの移籍に続く格好で、いったんはチームブリヂストン・アンカーのマッサーとして仕事を開始するが、結局は自転車界から少し距離を置いて、地元の静岡へ生活の拠点を移すことになった。

「このまま埋もれていくのかな......とも思って、そのときあるメカニックの人に、『プロって、何でしょうね?』と訊ねたことがあったんですよ。すると、その人いわく、『プロってのは、準備じゃねえの?』と。急に呼ばれても、要求された以上の仕事をできるように準備しているのがプロ、だというわけです。たとえどんな経験があっても、準備ができていなければ、そのクオリティは出せない。だからプロは、『準備8割・経験2割』。それが現在、自分がTeamUKYOで活動していくうえでの指針になっています」

 現在の森川が、過去の様々な経験を経て、選手をマッサージする際に気をつけているのは、「ほぐし過ぎないこと」だという。

「彼らが自転車に乗ったときのフィーリング、固さや筋肉のいいテンションを残しながら、疲れを取ってあげる。これはもう、感覚の世界の話ですけどね。『弱揉み』『強揉み』とよくいうんですが、僕は弱揉みのほうかな。リクエストがあれば、痛くなるくらい強く押すこともしますが、基本的には筋肉がよく動くようにサラーッと流して、もうちょっと強くてもいいと言われると、やりながら変えていったりする感じですね」

 また、このようなマッサージで選手たちの疲労を取ることと同様に、「メンタルなケアも回復には重要な役割を果たす」という。

「気分が乗らないとレースも走れないので、マッサージを受けているときにどれだけリラックスしてくれているか、ご飯を食べているときにどれだけ笑ってくれるか、どれだけストレスなくレース期間を過ごしてくれるか......そんなことのほうが気になりますね。実はマッサージもその中のひとつで、ストレスがないように、どれだけ選手の環境を整えてあげられるか、リラックスできる時間をどれだけ作ってあげることができるか、ということもケアの一環なのかもしれませんね」

 長年、多くの選手の脚を触ってきただけあって、優れた脚質を持つ選手の特徴は、「手が憶えている」とも森川は話す。

「やはり選手によって、筋肉の感じや張りが違うんですよ。別府選手(史之/トレック・ファクトリー・レーシング)はまるで水風船を触っているみたいで、関節も柔らかい。でも、しっかり踏んだら、筋肉がボコッと出てくる。緩急がすごくスムーズで、メリハリがしっかりしているんでしょうね。新城選手(幸也/チーム・ユーロップカー)は、まだ若手のころに触ったことがありますが、そのときに『この子の筋肉って、すごくナチュラルでいいね』と彼の指導者と話をしていると、『そうなんですよ、こいつ、けっこういいと思いますよ』なんて言っていたのが、たしか2005年だったかな。日本のナショナルチームでイタリアのレースを走ったときで、そのときも強くなるとは思ったけど、まさかこんな大活躍する選手になってくれるとは、驚きですね」

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