【自転車】片山右京「チームを買収して強くなっても意味がない」

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

「熊野の終了後、TeamUKYOはブリヂストン・アンカーを抜いて、アジアツアーのランキングで日本勢の3位になった。(その後、再びブリヂストンには抜かれたが)イランが終わったら再び逆転して上位に立てると思うし、愛三やNIPPOとの差もこれからどんどん縮めていくことができると思う。今年の目標は、日本勢のトップでアジアツアー全体でも総合5位以内に入ること(現在25位)。秋のジャパンカップまでには、その位置につけていたいですね。7月以降はヨーロッパ遠征が控えているし、来年に向けた選手のリストアップや、欧州で活動していくための拠点づくりなど、やるべきことが山積み。てんやわんやの状態ですが、(開幕前に立てた目標と比べると)順風満帆ではないにしても、ギリギリセーフの許容範囲内には入っていると思います」

 5月と6月に参戦した上記のUCIレースでは、本場欧州のプロツアーチームプロコンチネンタルチーム、また他国の強豪コンチネンタルチームを相手に戦った。勝つことはできなかったが、彼らを相手に戦ったことで、自分たちにはないものを目の当たりにできた、と片山は話す。

「世界レベルの彼らと比べると、ぼくたちはまだ小学生の運動会レベルだと実感しました。『楽しかった』というとポジティブすぎるかもしれないけれど、早い時期にいろいろなモノを見て今後の準備に入ることができるので、貴重な経験になりました」

 これらのレースで来日したフィリッポ・ポッツァート(ランプレ・メリダ/イタリア)やフランシスコ・マンセボ(スカイダイブ・ドバイ/UAE)など、経験と実績を持つビッグネームたちと戦ったことは、選手たちの闘争心と責任感に火をつける効果をもたらしたようだ。

「彼らとスプリントしてホイール半分の差で敗れたホセ(・ビセンテ・トリビオ/TeamUKYO)は、昔の彼のマネージャーやトレーナーから話を聞くと、『今のホセのほうが強い』と口を揃えて言います。なぜなら、彼がプロコンチネンタルチームで走っていた時代は『いちアシスト選手』でしたが、今は『エース』としてチームを引っ張る責任が自分の上に乗っかっているから。今年からウチに加入してきたリカルドも同じ。ギアやチェーンにトラブルがあって大きく後退したときでも、必死に追い上げて、最後までもがく。大学生選手も、たった数秒のために必死で今を生きなければならないことを自覚している。

 人間をモチベートしていく理由には様々なものがあるけれど、各自が自分の責任や個人的な悔しさなどをバネにして、それをキッカケに他のメンバーもどんどん強くなってくれることでチーム全体の力がますます高くなっている、というのが今の実感です」

 チームを強くしようと思えば、実力選手を何人も好条件で雇い入れて陣容を整えるのが、一番簡単で手っ取り早い。しかし、それでは根本的なTeamUKYOの強化にはならない。企業のM&Aのようにどこかのチームを買収し、名前だけを自分たちのものに掛け替えたとしても、それは自分たちの実力で手にした勝利ではないからだ。

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