【新車のツボ134】日産マーチボレロA30 、街で見かけたら拝む......くらい幻の名車 (3ページ目)

  • 佐野弘宗●文・撮影 text&photo by Sano Hiromune

 A30に積まれるエンジンも逸品だ。まあ、1.6リッターの自然吸気なので、性能は「普通に速い」程度だが、オーテックの職人が、ほぼ全部品の重量誤差のバランスを取りながら1基ずつ"手組み"するというのだから、これまた萌えのツボである。

 こうして、なにもかもが不敵なオーラがビンビンのA30だが、乗るとビックリするくらい優しい味わいなのが最大のツボである。

 ホイールだけで歩幅を広げる独特の手法で仕立てたサスペンションは、切りはじめは意外と鈍く、途中からグイッと曲がりはじめて......と、その走りには少しクセがある。しかし、ワイドボディ化で引き上げられた基本能力の余裕を、単純に高速旋回するためでなく、フワリと快適な乗り心地に振り向けているのがオーテックらしい。A30は普通に走っていると、まるで高級セダンみたいに柔らかい。

 また、エンジン音はなるほど豪快だが、高回転まで引っかかりなく回ってしまうので、意外にも"上品"という言葉が脳裏をよぎる。さすがは繊細な職人仕事である。

 オーテックには、日産本体で修業と経験を積んだベテラン職人も多く在籍する。どんな世界でも、本物のプロフェッショナルほどアマチュアや素人に優しい。だから、同社のクルマはスペシャルスポーツ車でもけっして粗野でない。普通の道で普通の人が楽しめる"寸止め"のサジ加減こそが、クルマを知り尽くしたオーテックの伝統である。その意味では、A30もまさにオーテック作品だ。

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