【新車のツボ115】スバルWRX STI試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

   このハイパワーを使いこなすのに必須の4WDシステムも"DCCD=ドライバーズ・コントロール・センター・ディファレンシャル"というマニアックかつ独特のもの。専門的にいうと、前後の駆動配分をつかさどるリミテッド・スリップ・ディファレンシャルのロック率の可変制御を、ダイヤルとボタンで自由に変えられる。

 ......と書いても、筋金入りのオタク以外はなんのことやらサッパリだろう。基本的にはリヤタイヤ優勢の駆動配分で、4WDとは思えないほどグリグリ曲がる。そのぶん路面状況や乗り手のスキルによっては不安定に感じることもあるが、そういう場合にダイヤルやボタンで"4WD感=安心感"を増すこともできる。とどのつまりは、なんともアブラ臭くてオタクっぽいメカなのだ。

 ちなみにいうと、このエンジンと4WDと6MTは、まるごと先代インプレッサSTI(第7回参照)と同じ。もっというと、このEJ20型というエンジンも、DCCD式の4WDシステムも、初登場からすでに20年以上が経つ。そう、このSTIは、最新設計のボディに、20年選手の駆動系を移植したクルマなのである。もうひとつちなみにいうと、パワーステアリングやパーキングブレーキまでも、STIはあえて旧式のものをそのまま使っている。

 というわけで、最新のSTIの味わいも、これまでのSTIそのまんま。それを味わうにはそれなりのウデと知識が必要だが、うまくツボにハマったときの速さと快感といったら......もう筆舌に尽くしがたいものがある。

 なんせエンジン、変速機、駆動系、パワステなど、人間の操作に直結する部品は、ほぼすべてが長年の熟成がきわまっているから、それも当たり前。ただ、ボディやサスペンション、タイヤといった基本フィジカルが進化したぶん、実際の走りは史上最高にキレキレになっているが!

 今の時代はどんな高性能スポーツカーでも、あくまでイージードライブで、さわやかな燃費の良さを追求するのが正義である。なのに、このSTIだけはいまだに、いちいちメンドくさく、お世辞にも環境にいいとはいえない技術を、確信犯的にそのまま使っている。冷静に考えれば、STIはいまどき笑っちゃうほどバカバカしいクルマである。ただ、好き者には、それがもう、たまらなくツボなのだ。

  【スペック】
スバルWRX STI タイプS
全長×全幅×全高:4595×1795×1475 mm
ホイールベース:2650mm
車両重量:1490 kg
エンジン:水平対向4気筒DOHCターボ・1994cc
最高出力:308ps/6400rpm
最大トルク:422Nm/4400rpm
変速機:6MT
JC08モード燃費:9.4km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:411万4800万円

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プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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