【新車のツボ101】トヨタ・ミライ試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 そして、もうひとつのミライのツボは「トヨタは燃料電池を本気で普及させる気でいる」という点にある。ミライのボディがセダン型なのも、かつての初代プリウス同様のトヨタならではの意気込みがうかがえる点だし、動力モーターやサスペンションなどに既存のハイブリッド車などの部品を最大限活用して、価格は700万円台前半。しかも、ミライ購入者には国から202万円、さらに首都圏や愛知県などでは自治体独自で75~150万円程度の補助金が追加(それ以外の地域では、そもそも水素ステーションがまだない)されるので、実質的には400万円台で入手可能なのだ。

 それでも絶対的に安くはないが、10数年前に各社が試作していた燃料電池車が「市販するなら1台あたり数億円」といわれていたことを考えると、まさに隔世の感である。

 こうして「水素ステーションが近くにあれば、明日にでもほしい」と、いきなり思わせてくれる完成度のミライだが、燃料電池車が普及するための本当のハードルは「で、水素ステーションが現在のガソリンスタンドなみに整備されるのはいつか?」と、水素を大量生産できる技術が、現時点では結局のところ石油由来......という2点だろう。

 もっとも、原油からガソリンを精製してエンジン車を走らせるよりも、燃料電池車のほうがすでにエネルギー効率は高い。また、水素は理屈としては、天然ガスや石炭、その他の再生可能エネルギーからも作り出すことができるから"脱石油依存"という観点からも将来的な期待は大きい。水素ステーション整備だけは燃料電池車の普及台数と不可分の「タマゴが先か、ニワトリが先か」だが、そこはみんな知恵と勇気を出し合うしかない。

 まあ、こむずかしい理屈や意地悪なツッコミは横においても、こうして世界初の大快挙を成し遂げたミライに、当の日本人がツボを刺激されないでどーする!?......って話である。

【スペック】
トヨタ・ミライ
全長×全幅×全高:4890×1815×1535mm
ホイールベース:2780mm
車両重量:1850kg
燃料電池スタック最高出力:155ps
モーター最高出力:154ps
モーター最大トルク:335Nm
JC08モード航続距離:約650km
乗車定員:4名
車両本体価格:723.6万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る