【新車のツボ99】スズキ・アルト・ターボRS試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 もっとも、「ひっさびさの軽ホットハッチだぜ!」などと気負いすぎると、ターボRSはステアリングの緊密感にちょっと欠けるし、旋回速度もほどほどレベル。自動MTは(少なくとも日本の交通環境では)この種のものでは最優秀で、変速スピードも十二分なキレ味だが、性急で乱暴な運転をするタイプには「変速で失速する」だの「ギクシャクする」といった不当な批判を受ける可能性もある。

 あえて伝統の"アルトワークス"を名乗らないことからも分かるように、このターボRSには「オタク専用商品にはしない」という企画意図がある。内容は本格的なツボに満たされているのに、全体のテイストにどことなく寸止め感があるのは、だからだ。

 だから、ターボRSの乗り味はけっしてガチガチではなく、乗り心地はあらゆる場面で、普通のアルトより快適で高級。100km/h前後で鋭い段差を乗り越えたときに、これほど滑らかに、ドシバタしない軽はほかにない。シートも専用とはいえハッキリ安普請(失礼!)であることも考え合わせると、この乗り心地はけっこう驚異的といっていい。

 そもそも新型アルトは超軽量であることが最大の売りである。各部を強化したこのターボRSでも車重はわずか670kg! たとえばワゴンRのターボより150kg、コペンやS660(の予想値)より約200kgも軽いのだ。

 軽さは、クルマを含めた運動機械における絶対不変のツボである。一定の剛性や機能を確保したうえで軽ければ、走っていて受ける衝撃も低減されて、乗り心地が良くなる。そして、細かい味つけうんぬんを超越して、走りも鋭く軽快に、そして当たり前のようにコペンやS660より(おそらく)速い......ことは、このターボRSが証明している。

 しかも、ターボRSは安い。「200万円級のコペンやS660は高根の花だけど、これなら買える!」と勇気づけられる若者はもちろんのこと、「ついに、自分専用セカンドカーの夢が......」と俄然ツボを刺激される中高年も少なくないだろう。

 「速い、安い、うまい、しかも軽い」という三拍子......いや四拍子のツボが、これほどそろったクルマはアルト・ターボRS以外にない。そして、それをこのタイミングで出してくるあたり、スズキはやっぱり商売のツボを熟知していると感心せざるをえない。

【スペック】
スズキ・アルト・ターボRS(FF)
全長×全幅×全高:3395×1475×1500mm
ホイールベース:2460mm
車両重量:670kg
エンジン:直列3気筒DOHCターボ・658cc
最高出力:64ps/6000rpm
最大トルク:98Nm/3000rpm
変速機:5AT
JC08モード燃費:25.6km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:129万3840円

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る