【新車のツボ91】
アウディS1試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 ただ、S1のステキな走りと清涼感のツボは、4WDによるものだけではない。S1はリアサスペンションまで専用の独立マルチリンク方式という超贅沢品(A1はシンプルな半独立式)。しかも、フロントサスペンションも、このサイズでは明らかに重いハナ先をしっかり支える専用設計。自然吸気なら3.5~4.0リッター級に相当するトルクを受け止めるボディも、ベースのA1がそもそも"小さな高級車"として作られた恩恵がアリアリだ。

 とはいっても、S1はあくまで小粒なボディを過剰にドーピングしたダイナマイトキッドだ。基本に忠実な運転をすれば驚異的に安全・安心でも、無謀運転への許容度にはやはり限界がある。これより大きなアウディの4WDはあまりに優等生で、へそ曲がりのワタシには個人的ツボではないのだが、人間が介在するスキが絶妙に残っているS1だけは別格の快感がある。

 アウディといえば、日本では優秀なツインクラッチATを搭載したクルマが大半なのだが、このS1はMTしか用意されない。公式見解によると「ATにすると、フロント荷重の限界を超えるから」という理由。ハイテクATは、単体ユニットでもMTよりも数十kgレベルで重いのだ。ただ、なにかと運転に手間がかかるほうが萌えるマニアにとっては、マニュアル限定......といのも、ツボをビンビンに刺激するポイントである。

 ちなみに、S1には今回の試乗車は3ドアのほかに、5ドアの"S1スポーツバック"もある。5ドアなら爆発的な速さとコンパクトサイズの使い勝手に、日常実用性や社会性も加わる。このサイズで400万円オーバーという価格はたしかにハードルが高いが、実際に乗ったときの感動と装備内容、凝りに凝った専用メカ、そして笑っちゃうほどの無敵っぷりを考えれば、直感的に「安うっ!」とつぶやかざるをえない。

【スペック】
アウディS1
全長×全幅×全高:3990×1740×1425mm
ホイールベース:2465mm
車両重量:1360kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ・1984cc
最高出力:231ps/6000rpm
最大トルク:370Nm/1600-3000rpm
変速機:6MT
JC08モード燃費:14.4km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:410万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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