【新車のツボ84】
日産ティアナ試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

  ティアナと同じような境遇のカムリやアコードが、日本では"ハイブリッド"というツボを前面に押し出してなんとか販売台数を稼いでいるのに対して、国際的にもハイブリッドを持たないティアナは、日本でも2.5リッターの純エンジン車のみ。ハッキリいって、スペックではまったくといっていいほど目立ったツボはなく、強いていえば、初代からの伝統である"助手席オットマンシート"が、奥さんのご機嫌をうかがいたいダンナ衆のツボを、やんわりとつっつく程度。内外装やメカニズムでもスカイラインほど凝ってもいない。誤解を恐れずにいえば、ティアナは"ドンガラ(≒ボディ)がデカイだけの大衆セダン"である。

 というわけで、マニア的には特筆すべきツボが皆無に近いティアナは、しかし、乗るとやけに気持ちいい。見た目には(昭和的な)フワフワ系の乗り心地と誤解するかもしれないが、そこは日産屈指の国際派。世界の最新トレンドはしっかり押さえてあり、しかも日本では前記のように"昔は鳴らした系オッサン"がターゲットだから、日本仕様のティアナはとくにガッチリ俊敏系の仕上げ。ハイブリッドのように複雑なメカも持たないので、運転感覚もじつにさわやか、かつ軽快である。トランクもあきれるほどほど広い。

 それにしても、ティアナに乗ると、素直に「大きいクルマは気持ちいいなあ」と思えるのが嬉しい。本当の運転好きには、こういうドンガラが大きいFFセダンがピッタリである。ここでいう"運転好き"とは数字やハイテクにこだわるスペック中毒でも、信号ダッシュ力だけを評価基準とする直線番長でも、あるいは都市高速や山道でグリグリ走るだけのハンドリングオタクでもない。とにかくクルマで遠くに出かけること、みずからステアリングを握って移動すること自体を楽しむ、真の意味での"運転"を好む人のことである。このサイズになるとスカイラインのような後輪駆動もめずらしくないが、細かい操縦性はともかく、横風や雨などの天候にも左右されずに、ロングドライブで安心感があって疲れにくい......という意味では、ティアナのような前輪駆動のメリット大である。

 背の高いSUVやミニバン、そしてコンパクトカーがいかに進化したといっても、それと同等の技術を、サイズに余裕があるセダンに投入すれば、クルマの基本能力はやっぱりセダンがいちばんなのだ。ティアナに乗ると、そういうクルマの本質のツボがよくわかる。

【スペック】
日産ティアナXV
全長×全幅×全高:4880×1830×1470mm
ホイールベース:2775mm
車両重量:1470kg
エンジン:直列4気筒DOHC・2488cc
最高出力:173ps/6000rpm
最大トルク:234Nm/4000rpm
変速機:CVT
JC08モード燃費:14.4km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:313.2万円

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