【新車のツボ81】VW up!試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 日本の軽の価値観でいうと、装備レベルや内外装の質感でも、コツを要する運転感覚でも、up!は「ありえない」と断じられてしまうだろう。しかし、up!のクルマの基本機能はなんら不足はない......どころか、軽に負けているのは走りとは無関係の装備内容だけで、基本フィジカルは軽の比較にならないくらいガッチリしている。なんかもう「食ってるものがちがう!」という感じ。

 考えてみれば、エアコンなんてオートでなくてもちゃんと快適だし、エアコンがあれば窓の開け閉めはめったにしない。見上げるほど高い天井はないup!だが、かといって大柄な成人男性が4人乗って、どうしようもなく窮屈というわけでもない。

 up!の走りはとにかくガッチリと安心で、乗り心地も悪くない。シートもシンプルな一体型だが、サイズは大きく疲れにくい。公称最高速度は170km/h超で、その速度域での走りもきちんと煮詰められているから、日本の速度域では文句なしに安定している。上り坂で追い越していったハイパワー大型車を、(エンジン性能差があまり影響しない)下り坂では逆に、無意識に追い詰めてしまう......なんてケースもけっこう多い。特別なハイテク環境技術はないけれど、そもそもボディが軽くて空気抵抗が小さいので、実用燃費はそれなりに優秀だし......。それもこれも、すべてup!の基本フィジカルのなせるツボだ。

 ただ、全方位にコストがかけられず、どこかで大胆に割り切らなければならない安いクルマでは、つくり手や買い手の国民性や風土のちがいが、今でもハッキリ出る。チマチマした便利装備は省いても、高速性能だけはゆずっていないup!は、なるほど"アウトバーンの国の安グルマ"だと実感する。

 日本独自のワクのなかで極限まで進化した軽を"ガラパゴス"などと、したり顔で切って捨てるつもりはない。軽は軽で、ニッポン技術の誇るべき究極だ。ただ、スピードが上がるほど活き活きとするup!に乗っていると、素直にツボを突かれて、なんとも好ましく思えてしまう。それも、われわれクルマ好き運転好きの、いつわらざる本心である。

【スペック】
VW high up!
全長×全幅×全高:3545×1650×1495mm
ホイールベース:2420mm
車両重量:920kg
エンジン:直列3気筒DOHC・999cc
最高出力:75ps/6200rpm
最大トルク:95Nm/3000-4300rpm
変速機:5AT
JC08モード燃費:23.1km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:193.2万円

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