【新車のツボ80】ダイハツ・タント試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 タントは歩幅がせまくて重心が高いカタチをしていて、しかもボディの剛性バランスにも左右で片寄っている。そんなクセの強そうなクルマを、こんなに自然に走らせるとは素直に驚く。先代タントではそういうクセを解消しきれておらず、走るととどことなくフラフラして、ワタシは運転していてクルマ酔いするほどだった。

 しかし、新しいタントの走りには、そういう悪いクセや変な雑味がまったくなくなった。高速でもスーッと自然にまっすぐ走って、横風にも弱くなく、カーブでもそれなりにコシがあって、加速でも減速でもクルマ酔いを誘発しそうな気持ち悪さはいっさいない。先代タントに乗った経験があるなら「これ、なんの魔法?」といいたくなるほどの激変なのだ。

 それにしても、軽というかぎられた枠と価格で、これだけの要素を詰めこんで、しかもこんな(自動車としては)イビツな物体をここまで見事に走らせるとは......。これはもう、スタンディングオベーションするしかない超力作である。同時に、タントのあちこちからムンムンと匂ってくる作り手の執念には、(いい意味で)トリハダが立ってしまう。

 かつて世界を席捲した日本のボンサイ技術だが、最新のハイテクボンサイともいえるスマホの世界では、日本企業がなんとなく冴えないのに残念な気がしないでもない。

 しかし、スマホはしょせん電子部品の集まりでしかない。クルマはちがう。金属や樹脂やガラスでできた無数の精密部品が、たがいに絡み合って、1tもの荷重を支えて、それでいて生き物のように精巧に動いて、しかも高速移動する機械である。軽サイズでやって見せることこそ、本物のボンサイ技術である。タントを見ていると、日本人はまだまだボンサイ技術世界一のツボを失っていない......と胸を張りたくなる。

【スペック】
ダイハツ・タント・カスタムRS"SA"
全長×全幅×全高:3395×1475×1750mm
ホイールベース:2455mm
車両重量:960kg
エンジン:直列3気筒DOHCターボ・658cc
最高出力:64ps/6400rpm
最大トルク:92Nm/3200rpm
変速機:CVT
JC08モード燃費:26.0km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:167万6571万円

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