【新車のツボ69】
BMW4シリーズ試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

BMW435iクーペBMW435iクーペ 4シリーズの基本ハードウェアは3シリーズをベースに2ドア化したものだが、外装の主要部品に3シリーズと共通のものはひとつもない。パネルもすべて専用。実際の4シリーズを見ると、たしかに3シリーズっぽくもあるのだが、そのいっぽうで、ハンサムさとオーラはまるで別物だ。その別物感が写真だと伝わりにくいのはもどかしいかぎりだが、実物の4シリーズはとにかく、ベタッと低くて、ズバーンと幅広くて、全身が有機的な曲線で包まれている。なんだかんだいっても、クルマのカッコ良さはやっぱり低くて幅広いのが基本だよなあ......と、この4シリーズを目の前にすると痛感する。

 そして4シリーズは、乗ってもセダンとは別物。内装デザインはセダンと共通だが、シートが明らかに低いので「自分はスポーティなクルマに乗っているのだ」という心地よい緊張感に否応なく包み込まれる。

 シツコイようだが、4シリーズのトドメは走りだ。とくに今回の435iは、セダンにはない6気筒エンジンを積む。BMWの6気筒はいまだに全気筒が一列にならんだ直列式......マニアには"ストレートシックス"と呼ばれる古典的な形式をもつ。ストレートシックスは高回転になるほど震動バランスがそろうのが特徴で、とくにBMWのエンジンは他社に輪をかけて精密な設計が売りである。

 ......というわけで、BMWのストレートシックスを高回転ギリギリまで回すと、そのエンジン音にはツブのきれいにそろった、他社の一般的なV型6気筒とは別物のコブシ......というか"泣き"が入る。本物の精密機械が本域でうなる音には生気が宿る。さらに右足に対するパワーのレスポンスも鋭い。

 そもそも走りにキレのある3シリーズを、さらに低くカッコよくして、その低さ=低重心を活かしてシャープな操縦性を突き詰めて、パワフルで鋭く、しかも独特の憂いのある音を奏でるストレートシックスを積んだ435iには、スミズミまで古典的な意味での"いいクルマのツボ"が詰まっている。

 4シリーズは安価な428iでも600万円台、今回の主役である435iにいたっては700万円台。ハッキリいって安いクルマではない。いまどきの日本でこんな背の低いクルマはぜんぜんハヤリでないし、エンジンなんて本当は無音のほうがスマートだろう。しかしである。4シリーズの姿を見て、そしてできれば運転する機会があれば、私たちクルマオタクがいつも騒いでいるツボ......の氷山の一角くらいは、理解してもらえると思うんだよなあ。

【スペック】
BMW428iクーペBMW428iクーペBMW435iクーペ Mスポーツ
全長×全幅×全高:4670×1825×1375mm
ホイールベース:2810mm
車両重量:1620kg
エンジン:直列6筒DOHCターボ・2979cc
最高出力:306ps/5800rpm
最大トルク:400Nm/1200-5000rpm
変速機:8AT
JC08モード燃費:12.7km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:774.0万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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