【新車のツボ65】日産ジューク・ニスモ 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 前置きが長くなってしまったが、ジューク・ニスモである。日産もやっと「歴史も栄光もあるニスモの名を大切にすべし」と決断して、今年から特別なスポーツモデルの呼称を"ニスモ"に統一。クルマによってバラバラだったキャラクターや味つけもしっかり方向づけして、ニスモを世界的な直系スポーツブランドに育てよう......という戦略に転換した。そんな新生ニスモの第1弾がこれである。

 私のような石頭オタクは「記念すべきスポーツモデル第1号がSUVかよ!?」と思わなくもないが、考えてみれば、今の日産では骨太な基本骨格をもつコンパクトカーはすっかり少数派。フェアレディZやGT-Rといった高額大型車をのぞけば、手頃な価格で、それなりに本格的な内容をもつベース車はジュークくらいしかない。

 ジューク・ニスモは既存のターボ4WD(16GT-FOUR)をベースに、エンジン出力を少しアップして、アシまわりを練り直して......といった内容だ。「欧州で鍛えた」のうたい文句どおり、それなりにガッチリ硬めだが、荒れた面で飛び跳ねることもなく、ステアリング反応は意外にマイルド、そして高速ではスピードが上がるほどしっとり落ち着いて......という大人の仕立て。反応が敏感なだけの、わかりやすくも薄っぺらなものとは正反対。ボディ本体はとくに強化されないのに、こういう味つけをシレッと受け止めるとは、ジュークの基本フィジカルが高いのだろう。

 もっとも、このジューク・ニスモも今のところ、実際の開発作業はニスモではなく日産本体が中心で、"ニスモ"はあくまでブランド名の意味合いが強そうだ。しかし、実際のジューク・ニスモに乗ると、"ニスモ"という明確な名前がついて、ちょっとプラスアルファの価格が許されるだけで、「ニスモだから、これでよし!」と、作り手の頭がスパッと切りかわって、迷いがなくなった感が強い。そのつど膨大な人間がかかわって開発されるクルマという商品は、ちょっとした言葉使いや組織改編だけでも、作り手の意識がまとまって、一気にいいクルマになる場合があるのだ。

 このままいけば、ニスモはスバルのSTIやルノーのルノースポールといった"世界のマニアが認める名品ブランド"と肩をならべる可能性は十分にある。あとは、とにかく途中で投げ出さないことだ。日産にかぎらず、日本メーカーの多くは、ちょっと景気が浮沈しただけで、この種のスポーツモデルをあっさり引っ込める例がかぎりなく多い。「好き者が会社の目を盗んで好き勝手やっている、しかもシツコク!」というところに、マニアのツボは刺激されるものなのだ。継続は力なり。

【スペック】
日産ジューク・ニスモ
全長×全幅×全高:4165×1770×1570mm
ホイールベース:2530mm
車両重量:1400kg
エンジン:直列4筒DOHCターボ・1618cc
最高出力:200ps/6000rpm
最大トルク:250Nm/2400-4800rpm
変速機:CVT
JC08モード燃費:12.6km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:285万750円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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