【新車のツボ51】
プジョー5008 試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 日本で2グレードある5008でも、特におとなしいタイヤサイズで価格も安価な"プレミアム"はとにかく乗り心地がいい。それも低速で路面からのアタリがどうのこうの......という低レベルな乗り心地ではなく、スピードが増すほどスススーッと上下動が収束する、本物かつ理想的なフラットライドである。

 さらにミニバンには似合わない過酷な山道に持っていくと、5008はさらに輝いてくる。カーブ途中でのロール(=左右の傾き)は小さくないが、ロールしきってからの5008はネバるネバる......。で、そのまま荒れた路面に突入しても「まだ余力があったのか?」と、タイヤが生き物のように路面に吸いついて離れない。ステアリング反応はあくまでゆったりだから同乗者がいても不快な運転にはなりにくく、ロールは大きいしタイヤ性能もまったくどうってことないのに限界は高い。

 こういう味わいはかつてのフランス車の真骨頂だった。昭和のクルマオタクはフランス車に乗って「これがパリの石畳をチャキチャキ駆け抜けて、安全にアルプスの山越えする秘密なのか......」などと勝手に納得していたものだが、グローバル化が進んだ現代のフランス車ではこういう風合いはどんどん薄れている。しかし、5008の味わいは、ひさしぶりに「トレビア~ン!」と叫びたくなった。

 5008がこれほどフランス土着味を保っている理由は、ミニバンが世界でガラパゴス化していることがひとつ。もうひとつが、大きく重いミニバンの走りはやはり、どこかで妥協しなくてはならないからだろう。その妥協のしかたや優先順位のつけかたに、いい意味で「国民性、風土、メーカーのクセ」が出る。

 何度も書いているが、ワタシはミニバン嫌いだし、サードシートを必要とする生活もしていない。でも、5008は「これだけ走りがツボなら、余計なサードシートがつくくらいガマンできるっ!?」と思ってしまった。その国の異文化を味わう......という輸入車本来のツボを、今いちばん堪能できるのは、意外にもミニバンだったりするというハナシである。

【スペック】
プジョー5008プレミアム
全長×全幅×全高:4530×1840×1645mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1570kg
エンジン:直列4 気筒DOHCターボ・1598cc
最高出力:156ps/6000rpm
最大トルク:240Nm/1400-3500rpm
変速機:6AT
JC08モード燃費:11.7km/L
乗車定員:7 名
車両本体価格:300万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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