【新車のツボ42】スズキ・ワゴンRスティングレーT 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 少なくともクルマの乗り心地では、タイヤができるだけ四肢を広げて、なおかつウエイトは重いほうが有利。ボディサイズが厳しく制限されるせいで歩幅がせまく、先代より最大70kgも軽量化した新型ワゴンRは、だからその方面ではかなりキツイはずだ。

 なのに、実際のスティングレーTは先代に輪をかけて高級な"シュワピタ"がちょっとした感動。さらに外寸を変えずに車重を1割近くも軽くしたのも驚きなら、軽いのに重厚"感"はまったく犠牲になっておらず、軽快という利点だけをうまく抽出しいるのが、われわれマニアにとって嬉しい驚異でもある。

 軽自動車の技術面ではホンダやダイハツのほうが話題になることが多い昨今だが、こういうベストセラー商品で好事家(こうずか)のツボもしっかり突くとは......やるなあスズキ! だいたい、このスティングレーTでも燃費ハイテクはひとつも省かれず、カタログ燃費は自然吸気モデルより1割も劣らない。死角なし。

 いまの軽自動車はご存じのように、室内空間はダダッ広く、かつてみたく高速道での制限速度が低かったりもない。それでいて優遇税制は健在。しかもこんな体躯で30km/L近く走っちゃう。こんなことを書くのは本当は気が引けるが、ワゴンRを見せられれば「デカくて税金の高いクルマを買うのがアホらしい」と思う人が出てくるのは当然だ。軽自動車ばかりが売れる......って、だからまったく当たり前。ガラパゴスだ非関税障壁だなんだと軽自動車否定論者も少なくないが、これぞ日本ならではのボンサイ技術の結晶だ。

 もっとも、このスティングレーTはほぼ150万円。白ナンバー・コンパクトカーのけっこう豪華なグレードとほぼ同額。「軽のくせに高い」とお思いの人もいるだろうが、軽自動車の構造は普通のクルマとなにも変わらず、しかも国内で売るしかないから、その原価はけして低くない。スズキをはじめとした軽自動車各社は「軽は安い」という世間一般が勝手に思い込んだツボに応えるべく、血のにじむような毎日を送っている。これが150万円で買えることを、逆に感謝すべきである。


【スペック】
スズキ・ワゴンRスティングレーT
全長×全幅×全高:3395×1475×1660mm
ホイールベース:2425mm
車両重量:820kg
エンジン:直列3気筒DOHCターボ・658cc
最高出力:64ps/6000rpm
最大トルク:95Nm/3000rpm
変速機:CVT
JC08モード燃費:26.8km/L
乗車定員:4名
車両本体価格:149万6250円

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