【新車のツボ40】
ジープ・ラングラー 試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 ラングラーはこうした目に見える部分だけでなく、中身もマジモンだ。ラングラーのサスペンションは、左右タイヤが剛結されたリジッド式を前後に備える。道なき道を本気で掻き分けるには伸び側ストロークが大きいリジッド式が最適だが、そのぶん舗装路での乗り心地や正確性で不利。なので、悪路性能を売りにするSUVでも、最近ではリジッド式は後ろだけ、あるいは前後ともリジッド式でないケースがほとんどだ。現在日本で手に入る市販車で、前後ともリジッド式のオフローダーは、このラングラーとスズキ・ジムニー(本コーナー第11回で登場)の2台しかない。

 というわけで、舗装路で走るラングラーの快適性や操縦性は、あえて文句をつける必要がない十分なレベルにはあるが、最新の乗用車として十二分ではない。しかし、目線が高くて、ボディ四隅も手に取るようにわかって、ボディサイズは小さくないのにせまい道でもストレスが少ない......のは、さすがは国民の生命財産を守る道具だっただけのことはある。クルマにかぎらず"マジモンの道具をあえて趣味で使う"のが好きなら、スポーツカーだかワゴンだかわからない昨今のSUVとは格ちがいのオーラを醸し出すラングラーは、間違いなくツボのはずである。

 それから、舗装路や高速ではなんとなく鈍い動きのラングラーなのに、カーブが続く山道では一転して活き活きと走る。調べてみると、重量配分はほぼ前後均等で、重心高も見た目のイメージよりずっと低い(脱着式ルーフも軽量な樹脂製だ)から、スピードが上がるほどに、本来の運動性能がこの図体からは想像もつかないほど高度なのがわかる。

 ラングラーは、そういう目に見えない重量配分や重心高にいたるまで妥協がない。そもそもの軍用ジープが食うか食われるか......の世界で生きた道具だったからだろう。妥協したら生命にかかわる。

 エコヒステリーが蔓延する現在にあって、本来は肉食系だったはずのSUVも、やけに小利口な草食系が増えた。しかし、どうせプライベートで乗るだけなら、ラングラーみたいな思いっきり肉食系グルマに乗ったほうがいい。そうすれば、生存本能のツボも刺激されて、日常生活にも張りが出て、細かいエコ生活より何倍も有意義だったりして!?

 ちなみに、ラングラーは低燃費とはいえないが、際限なしの大食漢でもない。酷暑に見舞われた今年8月の東京で、エアコン全開で、高速も山道も遠慮なくアクセルを踏みまくっても、カタログ燃費の7.5km/Lは普通に出る。燃料も安価なレギュラーガソリンでいい。

【スペック】
ジープ・ラングラー・アンリミテッド・サハラ
全長×全幅×全高:4705×1880×1845mm
ホイールベース:2945mm
車両重量:2040kg
エンジン:V型6気筒DOHC・3604cc
最高出力:284ps/6350rpm
最大トルク:347Nm/4300rpm
変速機:5AT
JC08モード燃費:7.5km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:398万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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