【新車のツボ38】ジャガーXF3.0 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 1.8t近い車重に、ごく普通の3.0リッターエンジンだから、正直なところ動力性能はまったくどうってことない。しかし、そのぶんエンジン本体は小型軽量で、XF本来の軽やかな動きをまったく邪魔していない。それに完全にシャシー性能のほうが優っているから、少しばかり乱暴にアクセル操作しても、軽快で滑るような身のこなしをまったく乱さない。

 パワステの操作力も羽根のように軽い。こういう本格的なスポーツセダンというと、ゴリゴリ強力なタイヤグリップ感と重めの操作系で"オトコっぽい歯ごたえ、手ごたえ"を演出するのが相場だが、XFはある意味でその正反対。ステアリングをギュッと握ってエイヤッと運転するのではなく、指先でつまんで愛撫するように優しく操作すると、XFはびっくりするくらいに運転しやすく、人間の手足のように走るのが面白い。

 すべてが軽~いタッチで肉体的負担は最小。しかしクルマの運動性能はすこぶる高くて、軽快にヒラリヒラリ......というジャガーのスポーツカー観は、「人間の英知と肉体を駆使するという意味では、サッカーもチェスもすべてスポーツ」という、いかにもイギリス的な価値観っぽい。ジャガーにはほかに、重厚長大なハイエンドサルーンの"XJ"や、見た目から本格スポーツカーの"XK"もあるが、ちょっとキザなイギリス的スポーツ観のツボに、もっともドンピシャなのがこのXFである。

 前記のように数奇な歴史を歩んできたジャガーの商品ラインナップは、レクサスやベンツ、ビーエム、アウディ......と、その時代ごとの旬なライバルに翻弄されてきたように見えなくもない。しかし、乗り味のツボだけは、時代や親会社は関係なく、自分たちの伝統として受け継がれてきたんだろなあ......。このXFに乗ると、そうとしか思えない。ジャガーの現在の親会社であるタタも「お金は出すが、クチは出さない」という理想的なパトロン(?)らしいから、彼らはこれまで以上に頑固一徹に、自分たちのツボを信じて突っ走るかもしれない。

 ドイツ車的な価値観が幅をきかせる高級車業界にあって、全身全霊で"ネコ科動物"を表現するジャガーはかなり面白い存在だ。

【スペック】
ジャガーXF 3.0プレミアムラグジュアリー
全長×全幅×全高:4975×1875×1460mm
ホイールベース:2910mm
車両重量:1750kg
エンジン:V型6気筒DOHC・2967c
最高出力:243ps/6800rpm
最大トルク:300Nm/4100rpm
変速機:6AT
JC08モード燃費:7.5km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:694万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る