【新車のツボ30】フィアット・プントエヴォ 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 プントエヴォのカタログだけを眺めたり、あるいはチョイ乗りしただけだと、まったく冴えない印象しかもたない人が大半だろう。プントエヴォの絶対的な速さは同クラス他車の1.2~1.3L程度にすぎず、デュアロジックは最新ATほど滑らかでも、ツインクラッチほど電光石火でもなく、アクセルペダルを乱暴に踏んでいるだけだと、ギクシャクした感触だけが前面に出てしまう。

 しかし「技術者はプントエヴォをどう走らせようと思ってつくったのか?」を頭の片すみに置いて、まる1日も付き合うと、印象は一変する。これほど以心伝心で作動するパワートレーンもほかにない。

 この変速機に地道に取り組んできたフィアットだけに、デュアロジックの変速プログラムは見事に練り上げられている。変速タイミングはアクセルやブレーキの踏み加減に応じて、アップもダウンも感動的に繊細で正確だ。その独特の法則さえ身体でおぼえれば、右足ひとつで、まるでMTみたく自由自在にギアが選べるようになる。それでも意識のズレが生じた場合も、シフトレバーかステアリングパドルを弾けば即座に修正可能である。

 こうしてクルマと人間が一体になれば、ATやツインクラッチより少しだけショックが強くて遅い変速も気にならない......どころか、これ以外がやけに無機質で面白味のない機械に思えてくるから不思議だ。クセのあるデュアロジックで限られたエンジンパワーを引き出して走るのはとても理知的な楽しみで、シャシー性能はすこぶる高度なので、下り坂にでもなれば、そこいらのSUVや下手なスポーティカーを軽く追いつめられる。

 だいたい、このデュアロジックでも絶対的な変速は人間が操作するMTより何倍も速い。変速の瞬間さえ意識できれば、ギクシャクという錯覚による不快感は霧散する。逆にいえば、プントエヴォに違和感しかもてないなら、自分のひとりよがりのオナニー運転を見直したほうがいい。クルマの運転も本質はエッチと同じ。おたがいのツボを絶妙に刺激しあうのが......って、なんのハナシだ!?

 まあ「使う人間に気を使わせるのは実用品としてどーよ!?」という意見も理解できる。しかし、これくらいのツボとクセがあるほうが、長く乗っても飽きにくく、自然と運転もうまくなる。いまの時代、成熟した実用品であるほど、多少のクセがあったほうが愛着がわいて、魅力も増すってもんである。

【スペック】
フィアット・プントエヴォ・ダイナミック
全長×全幅×全高:4080×1695×1495mm
ホイールベース:2510mm
車両重量:1160kg
エンジン:直列4気筒SOHC、1368cc
最高出力:77ps/6000rpm
最大トルク:115Nm/3000rpm
変速機:5AT
10・15モード燃費:-km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:230万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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