【新車のツボ28】ポルシェ・ケイマン 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 じゃあ「やっぱりケイマンはただ安いだけか!?」といわれると、そうでもない。たとえばワタシのようなアマチュアが思う存分に乗り回して、最後に"やったった感"のカタルシスが味わえるのはケイマンのほうだからだ。

 前記のように911とケイマンの最大の違いは車体後半部にある。エンジン位置だけでなく、911のリアサスペンションが複雑なマルチリンク式なのに対して、ケイマンのそれは簡素なストラット式。限界性能はマルチリンクのほうが高いが、エンジンパワーが控えめで後輪荷重も小さいケイマンでは、ストラット式でもまったく問題はない。

 それどころか、ミッドシップによる絶妙な前後重量配分もあいまって、"下手の横好き"の典型のようなワタシがブンブン振り回してリアタイヤがズルッと滑るような走りをしても、ケイマンは感動的なほど扱いやすい。これが911になるとリアの踏ん張りは強力だが、重量配分は明確にリアが重くてエンジンも強力なので「調子に乗りすぎたら決壊してスピンしそう......」という不安感がずっとつきまとう。まあ、公道でそんな走り方をするのは御法度なのだが、911はよくも悪くも"上級者向け"のオーラが濃ゆい。

 それにシツコイようだが、ケイマンの車体前半部やエンジンの基本設計は911と共通だ。つまり、運転環境やステアリング感触やシートの座り心地、そして身体に感じる剛性感・高精度感・高品質感は911はまったく同じであり、エンジンも余裕のある基本設計を小排気量で使うので、速さはそこそこでも、しっとりとした感触や静粛性は911をしのぐ。

 世界の専門家やマニアがポルシェに一目置く最大のツボは、ほかでは絶対に味わえない鉄のカタマリそのもの剛性感や精密機械そのもの精度感、そしてエンジンの吹け上がりと吹け下がりにある。加速側に鋭いエンジンは珍しくないが、ポルシェのエンジンは減速レスポンスの鋭さが独特なのだ。

 そういうポルシェ本来のツボはケイマンでもまったく削がれていない。それどころか、ポルシェのもうひとつのツボである"限界域のシビれるほど気持ちいい走り"は、ケイマンのほうが911より現実的なスピード(=公道)で味わえる。なんとなく911のカゲに隠れた感のあるケイマンだが、これは間違いなく911に匹敵するスポーツカーの名作である。

【スペック】
ポルシェ・ケイマン
全長×全幅×全高:4345×1800×1305mm
ホイールベース:2415mm
車両重量:1380kg
エンジン:水平対向6気筒DOHC・2892cc
最高出力:265ps/7200rpm
最大トルク:300Nm/4400-6000rpm
変速機:6速MT
10・15モード燃費:9.4km/L
乗車定員:2名
車両本体価格:604万円

プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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