宮司愛海アナが振り返る東京オリンピック・パラリンピック。問い続けた「スポーツが伝えられることとは」 (3ページ目)

  • 佐野隆●写真 photo by Sano Takashi

【伝え手の葛藤 心の置き場所を探る日々】

 こうして、選手の皆さんから、戦う姿を通じて多くの感動をもらったオリンピック・パラリンピックでしたが、大会を迎えるまでの道のりは決して簡単なものではありませんでした。取材を重ねるなかでは、複雑な心境を口にするアスリートも多く、この状況で行なわれるオリンピック・パラリンピックとは、スポーツとは何か、ということを強く考えさせられたのは我々伝え手も同じです。

 大会開催に否定的な声がアスリートに直接届くような状況で、開催が不透明ながら「開催された時のために」トレーニングに集中することは極めて難しいことだったと思います。

 時に、開催の是非を客観的に議論することとは別に、アスリートの努力自体を否定しているように感じる声もあったように思います。自分が信じて積み重ねてきた努力に対し、それは必要のないものだと声が聞こえてきたら? 直接その声が自分に届くとしたら? 想像するだけで胸がギュッと苦しくなります。もどかしい気持ちでいっぱいでした。 
伝え手としても、スポーツとは何か、を強く考えさせられました 写真:フジテレビ提供伝え手としても、スポーツとは何か、を強く考えさせられました 写真:フジテレビ提供

 ひとりの伝え手としては、さまざまな状況の方々がいて、オリンピック・パラリンピックどころではない、アスリートばかりが優遇されるのは間違っているという声も、正直なところ痛いほど理解できました。

 しかし一方で、スポーツキャスターとして、3年半オリンピックに向けて取材を重ねてきたなかで、アスリートがオリンピックに向けてどれだけの思いで努力を重ねてきたかも身をもって感じていたつもりです。

 この狭間で、自分の心の置き場所を探り続ける日々が続きました。

 悩み続けて、大会を伝える立場としてたどり着いたひとつの答えは、ただ選手の努力とその裏にある思い、事実をまっすぐに伝えること。それによって、情報を受け取る側の皆さんがどう感じて、どうアスリートの姿を、スポーツを捉えるのか委ねたい。何か絶対に伝わることがあるはずだ、と信じて日々中継をしていました。

【自分に問い続けた「スポーツを通して伝えられることって何?」】

 世界がすっかり変わってしまったこの1年半、スポーツ番組に携わる者としてずっと考え続けてきた「スポーツが伝えられることはいったい何なのか」ということ。

 大会を終えた今、私なりに出したこの問いに対しての答えは「あらゆる努力を、結果がどうであれ肯定できることの大切さ」でした。

 本番で思ったように実力が出せなかった。目指していた舞台に辿り着くことができなかった。逆に、目標どおりの結果を残せた。後悔なくすべての力を出しきることができた。どんな結末になろうとも、すべての努力が等しくすばらしく尊いもので、尊敬に値するものだということを、スポーツは教えてくれるのではないか、と。そして、そういうふうに、互いの努力やバックグラウンドに思いを巡らせ肯定しあうことができれば、みんなが生きやすくなっていくのではないか、と思っています。

 大会開催に当たってのさまざまな問題点について改めて議論を続けていくことは、これからの社会に必要不可欠なことですが、まずはスポーツキャスターとしてアスリートの努力を心からたたえ、1か月半の戦いの日々を私なりに締めくくりたいと思います。

オリンピックを一緒に伝えた宮里藍さん、野村忠宏さんと 写真:フジテレビ提供オリンピックを一緒に伝えた宮里藍さん、野村忠宏さんと 写真:フジテレビ提供
PROFILE
宮司愛海(みやじ・まなみ)

91年7月29日生まれ。2015年フジテレビ入社。
福岡県出身。血液型:0型。
スポーツニュース番組『S-PARK』のメーンキャスター。
スタジオ内での番組進行だけでなく、
現場に出てさまざまな競技にふれ、
多くのアスリートに話を聞くなど取材者としても積極的に活動。

■フジテレビ系 スポーツニュース番組『S-PARK』
毎週土曜日 24時35分~25時15分
  日曜日 23時15分~24時30分

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