宮司愛海×西岡孝洋のフィギュア対談。中継の醍醐味とその難しさ (7ページ目)

  • 佐野隆●写真 photo by Sano Takashi

西岡 宮司はフィギュアスケートに関わったこの2年間で印象に残っていることはある?

宮司 中継を担当する前のことですが、平昌五輪で見た羽生結弦選手の演技はやっぱり忘れられないですね。演技そのものもですし、会場を包んでいたあの異様な空気感も。日本からも多くのファンが来ていて、みんなが祈っていて。それで、ひとつ目のジャンプを跳んで着氷した瞬間に、会場が一体になって「ウワ―」と盛り上がって。観客がひとつひとつの動きを祈りながら見つめている空気感に感動しました。

西岡 羽生選手にはケガというストーリーもあったからね。

宮司 はい。みんなが「どうか最後まで無事に滑り切って」と見守っているなかで、王者の風格を漂わせる演技を見せてくれて。あれを生で見られたというのは、私のスポーツキャスター人生にとっても大事な出来事でした。西岡さんはどうですか?

西岡 僕は自分で実況中に泣きそうになったことが1回だけある。それが2012年のニースでの世界選手権での羽生選手の演技。演技途中でこみあげてくるものがあった。

宮司 2012年のフリープログラムは『ロミオとジュリエット』でしたね。

西岡 そう。ステップの途中にリンクのくぼみのせいで転んで、羽生選手がそこから立ち上がって「ウォー」って叫んだ時に、グッとくるものがあって。東日本大震災から立ち上がろうとする人たちがオーバーラップしたんだよね。本人は被災者代表みたいな言われ方を嫌がるけれど、当時の羽生選手は17歳。やっぱり忘れられないよね。

宮司 たくさん取材して思い入れがあると、なおさらですよね。西岡さんは落ち着いたイメージがあるのですが、実況しながらも感情は動いているんですね。

西岡 もちろん。それを抑えるように努めているけど、興奮したこともあるよ。バンクーバー五輪のショートで髙橋選手を実況していたとき。

宮司 フリースケーティングじゃなくて?

西岡 フリーは髙橋選手がメダルを獲れるかわからない状況にあって、どういう言葉を選ぼうかというほうに意識がいっていたから興奮できなかった。だから、銅メダルを獲得した時に「獲れてよかった」とホッとしたくらい。でも、ショートでいいポジションにつけなければメダルに届かないから、ショートの演技が終わった後でマイクの音量をオフにして「やったー!」と喜んでいたよ。

宮司 順位に関係なく、心を打つ演技はありますもんね。

西岡 2012年の全日本フィギュア選手権で2位になったときの髙橋選手の『道化師』の演技は、まさにそれだったよ。

宮司 そのシーズンに選手が辿ってきたストーリーを、観客の方たちもちゃんと知っていて、それによって会場の雰囲気もつくられていますよね。順位ではなく、いい演技だったかを見守っている。すごいなって思います。

西岡 そこも含めてのフィギュアスケートだから。選手の一挙手一投足を観客が見ているからこそ、会場がひとつになったときのパワーがすごいんだよね。

(第7回につづく)

Profile
西岡孝洋(にしおか・たかひろ)76年2月13日生まれ
1998年フジテレビ入社
佐賀県出身。血液型:A型
入局以来、数多くのスポーツ実況を担当。フィギュアスケートには、2004年世界選手権のリポート、2004年全日本選手権の実況から携わっている。選手の細かな情報まで網羅した実況がファンにも好評を得ている。

宮司愛海(みやじ・まなみ)91年7月29日生まれ
2015年フジテレビ入社
福岡県出身。血液型:0型
スポーツニュース番組『S-PARK』のメインキャスター。スタジオ内での番組進行だけでなく、現場に出てさまざまな競技にふれ、多くのアスリートに話を聞くなど取材者としても積極的に活動。フジテレビ系東京2020オリンピックのメインキャスターを務める。

フジテレビ系 スポーツニュース番組『S-PARK』
         毎週土曜日 24時35分~25時15分
           日曜日 23時15分~24時30分

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