宮司愛海×西岡孝洋のフィギュア対談。中継の醍醐味とその難しさ (6ページ目)

  • 佐野隆●写真 photo by Sano Takashi

宮司 練習をご覧になるファンもいらっしゃると思いますけど、それを見ていない方のほうが大多数で、練習がどうだったのかって伝えるのも価値がありますよね。

西岡 本番前の6分間練習だって、すごく緊張感あるよね。

宮司 最終グループは特に。あの独特の緊張感はなんと言ったらいいのか。見ている側なのにいてもたってもいられないくらい緊張します。

西岡 6分間練習の時は、選手たちがリンク入口に集まるでしょ。その画を必ずカメラは撮っているんだけど、フロア担当から僕に『しゃべってくれ』と指示がくる。だけど、僕はあの緊張感が好きで、しゃべりたくない。

宮司 あはは。

西岡 だから毎回、黙っちゃう(笑)。実況アナウンサーはしゃべるのが仕事だけど、黙った方がいいこともあるし、時には黙ることも仕事。そう思わせるくらいの緊張感が、6分間練習にはある。

宮司 つくろうと思ってもつくれるものではないし、表情ひとつからいろんな思いは伝わってきます。あの瞬間は言葉で描写しなくてもいいかなと感じますね。

西岡 中継では他にも伝えるのを躊躇する情報もあるんだよね。特にスケート靴の問題はすごくデリケート。選手がいま履いているスケート靴が、合っている合っていないは大事なことだけど、日本の選手たちは道具のせいにしたくない思いがあるから、実際のところを言わないんだよね。ただ、関係者からは裏事情を聞いているからこそ、そういう選手が単にルッツを跳んだだけでもすごくうれしい。本当は視聴者にも共有してもらいたいんだけど、選手本人はそれを望んでいないから、難しい。

宮司 中継では無理だけど、ここだから言えることがあれば教えて下さい。

西岡 バンクーバー五輪のときの髙橋大輔選手もスケート靴が合わなくて苦しんでいたんだよね。

宮司 えーっ! そんな状況であの見事なステップを踏んでいたなんて。

西岡 本番では本田武史先生のスケート靴を履いていたそうだよ。それがハマってあの演技。

宮司 すごい! メダル獲得は本田先生の靴のおかげもあったんですね。

西岡 この前、本田先生に会ったら、「俺のおかげ」って。ただ、こういう裏側で起きていることを、なかなか伝えられないジレンマもあるのが中継なんだよね。

宮司 やっぱり取材力は大事ですね。知らないで伝えられないのと、知っていても伝えないのでは意味合いが変わりますもんね。

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