上村彩子アナ、スポーツ報道の原点は母への"怒り"。ノムさんが教えてくれたこと、サッカー日本代表の恐怖の取材も振り返る

  • 山本雷太●撮影 photo by Yamamoto Raita

現在は『報道特集』キャスターなどとして活躍する上村アナ現在は『報道特集』キャスターなどとして活躍する上村アナこの記事に関連する写真を見る 実況や取材経験が豊富だった伊藤アナに比べ、私は経験が浅く、高橋さんや松田さんのような一流アスリートでもありません。だからこそ、私の疑問や反応は視聴者の方に一番近いものでもあったんです。私自身も取材などで選手と触れ合ったり、事前準備でそのスポーツについて調べたりする機会はもちろんありますが、放送ではこの視聴者の目線を忘れないよう振る舞うことを最後まで心がけていました。

 結果を知るだけならネットニュースでもチェックできる世の中です。ただ、勝利や成功の背景に何があったのか、視聴者目線で何を疑問に思うのか、解説者への質問や選手へのインタビューを通じ、スポーツへの興味が薄い母を思い出しながらお伝えする、それが私の5年間の役目だったように感じます。

野球の見方を変えてくれた、ノムさんの存在

『S☆1』では各競技界の著名な解説者と共演させていただきましたが、特に心に残っているのは、2020年2月に亡くなられた、野村克也さん。「ぼやき解説」という名物コーナーに長年ご出演いただき、私も何度も一緒に試合を観戦させてもらっていました。

 当時84歳だった野村さんですが試合が始まると、パッとスイッチが入って、すごい勢いで解説していくんです。オンエアには映っていないところでも、部屋に用意したバットを手に取って、「この選手はグリップエンドに指がかかっていないから手首を柔らかく使えないんだ」とか、「あの選手はちょっと前までバッティングのスタンスが狭かったけど、ほら、今は広げているから膝の力をうまく使えているでしょ」と、かなり細かいところまで教えてくれるんです。

『S☆1』で共演した野村克也さんと。野村さんが最後に出演した時の一枚『S☆1』で共演した野村克也さんと。野村さんが最後に出演した時の一枚この記事に関連する写真を見る 私自身、もちろん野球のルールは勉強して、だんだん試合の流れもつかめるようになってはいました。ですがやはりプレー経験はないので、その選手がどういう考えを持って、バットの持ち方や足のスタンスを変えているのかというのは全然わかりません。なので野村さんの解説はいつも驚きと学びの連続でしたし、野球の見方も大きく変わって、より試合を楽しめるようになりました。

 最後にご一緒できたのは、2019年11月のWBSCプレミア12。日本が優勝を決めた韓国との決勝戦でした。もっと隣で勉強させていただきたかったのでとても残念ですが、ずっと孫娘みたいにかわいがってもらえて、本当に感謝の気持ちで胸がいっぱいです。

 野村さんは、毎週TBSに来る時、顔なじみのスタッフと会うのがとても楽しみだったみたいです。深い関係性があるのは、監督時代から18年以上、TBSのいろんなスタッフたちがつむいできた心のつながりがあるからこそ。私が野村さんの隣に座れたのも歴代のディレクターやプロデューサー、スタッフのおかげですし、その想いを今度は私が引き継いでいかなければと思っていましたね。

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