常にアグレッシブ。挑戦者であり続ける羽生結弦選手 (3ページ目)

 あの時、私は会場の特設スタジオで生中継の真っ最中でした。両選手のスピードがかなり出ていたため、「ドン」と音が響いたほどの激突で、最初は誰と誰がぶつかったのか分からなかったのですが、リンクで滑っている他の選手を確認しながら、倒れているふたりの選手を見ると、羽生選手とエン・カン選手(中国)でした――。

グランプリファイナル連覇に期待がかかる羽生結弦 photo by Noto Sunaoグランプリファイナル連覇に期待がかかる羽生結弦 photo by Noto Sunao そのアクシデントにも驚きましたが、羽生選手とエン・カン選手がメディカルチェックを受けてから、ふたりともリンクに上がって演技をしたことには、さらに驚かされました。

 松岡修造さんは「出るべきではない」とおっしゃっていましたし、大会後には、ロシアのプルシェンコ選手を筆頭にスケーターやアスリートの方々から「出場するべきではなかった」という発言もありました。

 私もその時「無理をして出場せずに安静にしたほうがいいのでは……」と思いました。次の2018年平昌(ピョンチャン)五輪を目標にするうえで、長いスパンで考えて、ケガの治療を優先してほしい、とも思っていました。

 そんななか、フリーの4分半を滑りきった羽生選手について「すごいな」とあらためて思ったのは、あの状況でも周りに気配りをしていたことです。ぶつかったエン・カン選手のことを心配して、リンクから上がったときに様子を見に行き、声をかけていたのです。また、車椅子でホテルに帰る時も、待機していた私たちメディアのスタッフに「ご迷惑をおかけしてしまってすみません」としっかりと挨拶をして会場をあとにしました。

 それだけ周囲に気を遣う羽生選手ですから、グランプリファイナルにソチ五輪メダリストがひとりも出ない状況にしてはいけないという責任感もあったのではないかと思います。
※男子銀メダルのパトリック・チャンは今季休養、銅メダルのデニス・テンは出場を逃した。女子金メダルのソトニコワはケガで今季欠場、銀メダルのキム・ヨナは引退。銅メダルのコストナーは今季休養。

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