切磋琢磨で目指す夢の9秒台。陸上短距離・桐生&山縣の挑戦 (2ページ目)

 100mの選手は、自分が一番になるために1/100秒でも縮めようと地道な努力を続けている強烈な負けず嫌いばかりだと思います。当然、昨年のロンドン五輪でいい走りをした山縣選手も、「俺の方が強い」という自負もあるはず。桐生選手が織田記念で10秒01を出してからはメディアも世間の目も「桐生一色」。それに対する複雑な気持ちもあったことでしょう。それなのに、いいライバルと認めて、後輩である桐生選手を気遣えるところに、頼もしさを感じました。

 もちろん、山縣選手は以前から「9秒台を出したい」と言っていました。しかし、4月29日の織田記念では大会直前に風邪をひいてしまい、100%の体調ではなかったため記録が伸びず、悔いがあったと思います。

 しかも、その織田記念で桐生選手が10秒01を出したことで「少し焦った」といいます。そのため、「5月の関東インカレでは記録を意識しすぎてしまい、自分の走りができなかった」そうです。だからこそ、その反省を生かして、日本選手権では「(9秒台を)狙うためにあえて狙わない」......つまり、記録を出すためにあえてその目標を意識しなかったそうです。それにしても、大切な試合に合わせてしっかり建て直してきたメンタルはさすがです。

 一方、桐生選手と最初にお会いしたのは、10秒01を出した織田記念陸上大会。その時は、「鈍感力」があるというか、「我が道を行く強さがある」という印象でした。「走ったらこんなタイム(10秒01)が出てしまったから嬉しい」とニコニコしていた桐生選手。しかし、織田記念の後「日本人初の9秒台か?」と騒がれ、一気に注目されてからは、ミックスゾーンで取材を受けるときの表情も変わって、硬さが見えるように。

 それでも、日本選手権では、緊張して「少し硬くなってしまった」にもかかわらず、2位に食い込むのですから、17歳とは思えない度胸です。

 まだ高校生の桐生選手は、「あっさり9秒台を出してしまうかも?」と思わせてくれる伸びシロの大きさを感じるこれからが楽しみな選手。高校では、練習メニューもあれこれ自分で考えてやっているようなので、感覚的なその発想を今後じっくり取材してみたいです。

 17歳で世界最高峰の「ダイヤモンドリーグ」に出場した桐生選手にとって、今回、8月の「世界陸上モスクワ2013」に出ることは、彼にとってさらに大きな財産となるはず。モスクワでの世界陸上は、「あの大会に出たから、自分は成長した」と思えるような、進化のきっかけをつかむ大会になってほしいです。

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