Jリーグの鹿島アントラーズ、Bリーグのサンロッカーズ渋谷、
プロゲーミングチームのSCARZ(スカーズ)、
女子プロゴルファーの堀琴音選手とスポンサー契約を結ぶ、LIXIL。
ユニフォームやウエアへの企業ロゴの掲出をベースに、スポンサーの権利を活用して行なう
マーケティング活動「アクティベーション」に力点を置いている。
『LIXIL×SPORTS』(リクシルスポーツ)の名のもと、同じビジュアル内に、
スポンサードするクラブや選手が並ぶクリエイティブを採用し、
選手を起用した動画をYouTubeなどで展開するほか、
冠試合でのイベントや、新型コロナウイルス流行前にはファンイベントも実施するなど、
アクティベーションの積極性は、他に類を見ないほどだ。その秘密に迫った。
『LIXIL×SPORTS』のYouTube動画を目にして感じるのが、企業色がほとんどないことだ。選手同士の対談やOBたちのトーク、ゴルフ対決動画のどれにも、商品の露出、広告的な要素がない。それはSNSでも同様だ。
スポンサー企業の多くは、選手が商品とともに映るCMを流したり、商品をアピールする記事を掲載したりすることを踏まえると、LIXILのスポンサーシップは異例と言える。
そのコンテンツ作りの大きな特徴は、徹底した『ファン目線』。クラブが好き、選手が好きというファンは、勝敗はどうあれ、クラブ愛、選手愛を抱き続けている。それであれば、結果については各種メディア報道に任せ、そんなファンにとって楽しいコンテンツ、うれしいコンテンツを提供することで、『LIXIL×SPORTS』の価値を感じてもらえる。
また企画を立案する際には、クラブや選手と密にコミュニケーションを取りつつ、必ずKPIを設計して数値化し、企画実施後には、効果測定と検証も行なっているという。ビジネス上重要とされるPDCAを循環させ、よりよきコンテンツを追求するその姿勢が、動画の視聴増、フォロワー数の増加につながっている所以だろう。
LIXILのスポンサーシップはクラブ・選手、ファン、そしてLIXILが三方良しで進む理想的な形と言えるだろう。
鹿島アントラーズ C.R.O 中田浩二氏
LIXILがアクティベーションを行なう際に重視しているのが、クラブや選手とのコミュニケーションだ。現在、鹿島アントラーズ クラブ・リレーションズ・オフィサーとして活動する中田浩二氏は「私は、毎週LIXIL様との定例会議に参加し、ともに意見を出し合い、『LIXIL×SPORTS』でのさまざまな動画企画やマッチデーでの施策を実現してきました」とその関りを語る。
さらに「情報発信については、鹿島アントラーズだけでは、当然限界があると思っています。そのなかでLIXIL様のお力を借りることによって本当に多くのことを実現できると考えています」とその存在の大きさを感じている。
また、堀琴音プロのマネジメントを担当する間嶋豊之進氏は、「選手の調子に関係なく、長期的に支援してくれるので、選手との絆も強くなります」と、良好な関係を築けていることを強調。そのうえで、「選手に負担をかけないように、アスリートファーストで企画を考えてくれ、アクティベーションを通じて選手の価値を一緒に上げてくれる」と感謝の言葉を口にしている。
中田浩二氏が「LIXIL様の多大なるサポートに応えるためにも、鹿島アントラーズが一つでも多くのタイトルを獲得することで、少しでも恩返しをしたいと考えています」と語るなど、スポンサードされていることが、チームのモチベーション向上にもつながっている。
2017年、LIXILは企業ロゴの掲出をメインにしたスポンサーシップから大きく方向転換。スポンサードするすべてのクラブや選手が同じビジュアル内で並ぶクリエイティブを採用し、『LIXIL×SPORTS』の名のもと、さまざまなアクティベーションを実施するようになった。
選手やOBを起用した番組を次々公開し、YouTubeやSNSでそれらを発信。各SNSの特性に合わせたコンテンツも盛り込んでいった。
ブランド戦略部の戸谷暁祐部長が「私たちはファンとともにビジョンを共有するパートナーだと思っています」と語るように、そのコンテンツ作りで共通しているコンセプトが『ファン目線』。クラブや選手発信の情報は、公式発表的な意味合いが強く、負けが込んでいる状況では、ファン目線のライトなコンテンツを発信しにくい。その点、企業のフィルターがあれば、それが可能となる。
クラブや選手が必要としているコンテンツをLIXILが補完することによって、クラブや選手から歓迎されるだけでなく、ファンの支持も得られるようになった。
さらに「我々のスポンサーシップのスタートは、我々の理念に共感いただける選手やチームの皆様と一緒に手を組んでいきたいという考えでしたので、代理店様などは通さず、選手やチームに直接コンタクトを取っています」と自発的に動き、アクティベーションも考えている。
そのひとつとして、鹿島アントラーズにスポンサーをしていた縁で、2020年に内田篤人氏と「LIXIL SDGsアンバサダー」の契約をした。2021年7月からは、SDGsを楽しく学ぶをコンセプトに、内田氏とともにYouTube番組『内田篤人のSDGsスクール!』をスタートさせた。戸谷氏は「SDGsを企業の宣伝として伝えるのではなく、視聴者目線に立って、どのようなコンテンツなら受けいれてもらえるか、日々試行錯誤して取り組んでいます」と語る。
自らが主体となり、『ファン目線』を貫くLIXILのスポンサーシップの形は、今後のスポンサー企業の在り方を変えていくかもしれない。