大坂なおみが新スタイルで挑む全豪OP。「3本目までに主導権」がカギ (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

 テニスは個人競技ではあるが、それぞれがコーチやトレーナーなどで"チーム"を結成する今の時代では、団体競技的な側面すら持ち合わせる。だからこそシラーは、選手の成功に欠かせないのは「組織力」だと語気を強めた。

「私の仕事は、彼女を完璧なアスリートに仕上げること。私が彼女のチームに加わった時、『これは3年プロジェクトだ』と伝えた。求める理想のアスリートになるには、それだけの時間が必要で、今年がその3年目。今は、90%まで来た。

 そのうえで、テニスプレーヤーになるには、"マインドセット=思考様式"が必要になる。そして今の彼女には、それを教えられる理想的なティーチャーがいる。彼女のマインドセットは、必ず変わる」

 だから私たちは、彼のことを「プロフェッサー」と呼んでいるんだよ......。セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)ら多くのトップアスリートの指導経験を持つトレーナーは、新コーチに全幅の信頼と敬意を寄せた。

 プロフェッサーと呼ばれるフィセッテ・コーチは、物静かで理知的な語り口調に、たしかに"ティーチャー"的な資質を漂わせる。データを重んじた練習や戦術立案にも長ける彼は、その能力を、短いオフシーズンのトレーニングセッションでも存分に発揮していたようだ。

 大坂はコーチを「とても効率がいい」と評し、本人も「私の理念は、データに基づいてやるべきことを絞り、無駄に時間を費やさず、短期間で集中的な練習をすること」だと明言した。オフコートでもやるべきことが増えた今の大坂にとって、フィセッテは理想的なコーチなのだろう。

 それら新体制を整えた大坂は、全方位から解析の目を向けられる全豪オープンで、いかなる戦いを見せてくれるだろうか?

 大坂とコーチがいずれも「改善できる点」として挙げるのは、リターン。目指すプレーヤー像は、最大の武器であるサーブも効果的に用い、「3本目までに主導権を握って、打ち合いを支配する」スタイルだという。

 オリンピック・イヤーでもある2020年を迎えた今、女子テニス界は転換期を迎えている。世界1位に座すのは23歳のアシュリー・バーティ(オーストラリア)で、昨年の全米オープン優勝者にして世界6位のビアンカ・アンドレスク(カナダ)は19歳だ。

 さらには、昨年大坂が3度敗れた22歳のベリンダ・ベンチッチ(スイス)も7位につけ、キャリア初のグランドスラムタイトルを狙う。昨年のウインブルドン覇者のシモナ・ハレプ(ルーマニア)や、38歳の「生きるレジェンド」セレナ・ウイリアムズも依然存在感を示すが、新時代に移りつつあるのは間違いない。

 その中枢のひとりである大坂は、今大会で連覇を成し、新たな物語のヒロインとなるだろうか?

「『目標は、楽しむこと』......とは、もう言いたくないの。だって今は、自然にそれができているから」

 そう笑う彼女には、間違いなくその資格がある。

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