「僕の助けになっている」。フィギュアスケートを描くときに双眼鏡を使う理由 (2ページ目)

  • 高橋学●写真 photo by Takahashi Manabu、shutterstock

――フィギュアスケートを取材するときに、小宮さんはどんなところに注目していますか。

「トゥルソワ選手(ロシア)のように4回転を飛べればすごいと思いますが、それだけではないのがフィギュアスケートの奥深さだと思います。書き手としては、選手の一挙手一投足を描いたほうが楽しいと思っているので、彼らがどんな表情でリンクに入ってくるのかから、双眼鏡で確認します。やや緊張しているのか、今日はいけるのか、コーチとのやりとりも見ておきます。演技が始まるときのポーズもそうですし、演技直後の表情もそう。終わったときに喜色満面なのか、納得できないけどそれを押し殺しているのか。限られた時間の中で、彼ら、彼女らのドラマが濃縮されているさまが見られるので、ぞくぞくしますね」

――そのほか、双眼鏡を使うポイントはありますか。

「キス&クライでのやりとりは見ていますが、そこは観客のみなさんも見ていますよね。僕と見るポイントは、あまり変わらないと思います。取材者として双眼鏡が一番活かされるのは、練習を見る時です。前日やその日の朝に公式練習があるんですが、そういう時のほうが、選手たちは自然な表情になっています。ライバルたちが周りにいて、試合が目前に迫っているという緊張感もあります。その時のしぐさは裸眼では見られないので、双眼鏡がすごく武器になっています。

 汗をかいているなとか、手で髪を触っているなとか、靴紐が気になっているなとか、些細なところまで見ています。それが結局どういう結果につながるかはわからないんですが、フィギュアスケートはラグビーやサッカーと違って、一人でやる競技なので、精神状態が滑りに出やすいんです。だからその細かいスケッチが、のちのち書き手としての僕の助けになっているんです」

――このニコンの双眼鏡を使ってみて、これまでのものと比較してどうでしょうか。

「単純にレンズがいいので、かなり鮮明に見えます。選手の目の動きまで見えるような感じです。『目の表面が濡れて揺れている』という表現をするのに、当然ですが、目が充血していたらその表現は嘘になってしまいます。人物を描く方向性を自分に指し示してくれる一つが双眼鏡です。

 だから双眼鏡がないと相当困りますね。1回忘れたときに取りに帰ったことがありました。それくらい僕が書くときはすごく大事にしています。わりと相棒みたいな感じに思っているので、そろそろ名前をつけてもいいかなと思ってます(笑)」

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