元プロ野球スカウトが告白。
双眼鏡で逸材選手の「違い」がわかる

  • 高橋学●写真 photo by Takahashi Manabu、PIXTA

――観客席の距離から選手の才能を見抜くスカウトにとって、双眼鏡は欠かすことのできない道具です。双眼鏡をどんなときに使って、どんなポイントを見ますか?

 ピッチャーの場合は、ピンチになったときの表情やしぐさを双眼鏡で見ます。双眼鏡がないと、表情まで見ることは不可能です。動揺しているような様子が見える選手は、もはやバッターとの勝負ではなくなっています。気持ちが内向きになっていてバタバタしているような状態で、それがピッチングに現れてしまうんです。こうなると、もういいピッチングは難しいでしょう。あと私の経験上、ピンチのときにマウンド上で体を大きく見せようとする選手は小心者が多いですね。動揺を隠そうとしているだけで、気持ちが乱れているのがわかります。

 マウンドでの度胸という意味では、井川慶はすばらしかったですね。打たれてもまったく動じない。双眼鏡で表情を見ても動揺は見られず、体の動きも少なく、淡々と投げていました。そんなタイプの選手のほうが成功していることが多いと思います。

――バッターを見るときは、双眼鏡でどんなところを見ていましたか?

 バッターを見るときは、一塁側か三塁側のスタンドに行って双眼鏡を使っていました。それはバッティングそのものを見るというよりは、凡打したあとのベンチでの表情を確認するためです。悔しがるのはいいんですが、がっくり肩を落としているような選手は、その後のプレーに影響が出ます。気持ちをすぐに切り替えて最前列に来て声を出すような選手のほうが、将来性を感じますね。

――こんな見方をすると野球観戦がもっと面白くなるというポイントはありますか?

 野球通であれば、状況に応じて、ここでバントがくるなとか、スクイズだろうと、想像しながら見ますよね。当然そういうときは監督からサインが出ています。そのサインが出たときに、バッターやランナーの表情を見ると面白いですね。選手の癖が出るときがあるんです。顔つきが変わるとか、うなずくとか、わざと素知らぬ顔をするとか。そのような表情の変化やプレーの裏側は、双眼鏡がなければ見えません。せっかく球場に行くのなら、テレビ中継に映らないシーンを見たいですよね。

 あとはランナーを見るのもいいですね。普段盗塁していない選手が走ろうとしているときは、絶対にしぐさが変わりますから、そこを双眼鏡でのぞいて見てください。普段は一定のリードを取るんですが、盗塁するときには半歩ほどベース寄りに立つ選手がいるんです。それは牽制されて逆を突かれてもすぐに戻れるようにするためです。それを知っているとリードも違った視点で見られます。

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